ロシア



2006.09.29(金)

 「アイス・バー」


 ポールとオリバーが盛んに私を誘ってくる、氷のテーブルや椅子が置かれているバーという確かに珍しい酒場がそれだったがこの日私は他に見るべき物があった。

 『ナイト・クルーズ』

 エレガントを名乗るツーリストとしては避けては通れない道だった。

 出航は深夜1:30時、390 ルーブル(約1800円)でワン・ドリンク付のこのボートトリップの最大の売りは夜間開く跳ね橋が眺められる事だった。

クルーズの乗場と船上からの景色。



 周りはカップルが殆どだ、だが私も旅行界屈指のロマンティストと謳われた漢だ。


 体の中にドーパミンをを分泌させ即座に脳内彼女を創り出す。
 こうなれば見た目は単独であっても彼ら以上にロマンティックな気分に浸れること請合いなのでこの私の勝ちだろう。

 ボートは優雅に出発する。

開らく跳ね橋
 


 開閉のタイミングが見れるか?それとも既に上がった状態で見れるかは取るツアー次第だ。

 ドリンク券をトニックに替え、左手に転がしながらふと自分の右側をみる。黒髪ロングで抜群のスタイルを持つ美しい女性が私の脳内に描かれている、ここまではばっちりだ。

 『アイ・ラヴ・ユー』

 言葉にならない言葉を彼女の瞳を見つめながらそっと呟くロマンチックな夜・・・

こちらも跳ね橋
 

 
 ボートのコースは良く考えられており、何個かの跳ね橋は丁度上がるタイミングで通過する。私は脳内の彼女のうなじにかかる黒髪をそっとかきあげながら耳元でこう囁く、『あの跳ね橋が上がってこのボートが通過した所から二人の恋が始まるんだ』と・・・、そんな甘く、そしてちょっと切ないサンクト・ペテルブルグのナイト・クルーズ・・・



こちらも跳ね橋
 


 7つの跳ね橋を眺め、一時間半のクルーズが終わりに近づく。「この船が岸についたら・・・」、「僕たちは結婚して結ばれる」

 そんなどこにでもあるような恋人たちの一ページを綴るナイト・シーンの主役を今このプロフェッショナルが演じている・・・脳内彼女と・・・

川からの眺め




 そしてボートはクルーズを終えて到着する。脳内彼女が転ばないように手を繋いでエスコートをしながら船着き場に足をつけ、そっと彼女を手繰り寄せて接吻を交わし、朝を迎えるその時まで愛を確かめ合うサンクト・ペテルブルグの熱く情熱的な夜・・・

 は、所詮脳内なのでありようも無いが、ここまで書いて自分なりに分かった事がある。


 そう


 『これはキモイ!!』


 と・・・


 船着き場はエルミタージュの傍、泊っているホステルから5分程度の距離、私はホステルのドミのベッドで横たわり、彼女が居ないのにロマンティックには無理があったと悟りながらいつしか眠りへと墜ちていった・・・

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