怪しき影!(モンロビア:リベリア)

リベリア




2005.12.06(火)

 朝起きてホテルのテラスに出る。

 モンロビア・・・

 危険な街・・・

 だがウォーターマーケットの喧騒はその危なさを感じさせない。

ホテルのテラスから眺めたウォーターマーケット



 ここで費やすのは1日。

 そう、たった1日だ。


 私はロンプラのマップを見て素早く訪れる場所を決める。

ホテルの近くの教会、右は一番の大通りであるブロードストリート
 


 観光なんてのんびりとやればいい、人はそう言うかもしれない。

 だが、それが通用するのは一部の国だけだ。

 今私がいるのはモンロビア。

 ”ここではどんなことでも起こりうる”

 そのトラブル全てに対処するのは無理だ。

 そうなればどうするか?同じ場所になるべく2度行かないように、また一つの所に長く留まらないようにする。

 自分が標的になる事を避ける為だ。

 ここでの露出は少なければ少ないほどいい、必要な分だけ見たら次に動く。

 この行動が私の安全を今まで訪れた数多くの危険な国でも守ってくれていた。



中心から少し離れたブロードストリート上にて


こちらもブロードストリート、賑わいが見てとれる。



 たかだか観光にそこまで細心に振る舞う必要があるのか?
 
 私は思う、どんな国であっても必要な心構えだ。

 99回用心してOKであっても油断したたった1回が命取りになる。


Masonic Temple

Masonic Temple付近から見たベンソン・ストリート


Masonic Templeにあった像、なんだか良く分からなかった
 

くどいけどMasonic Temple
 

裏側の景色


Masonic Temple付近から見たベンソン・ストリート


Masonic Temple




 
 そもそも私は見も知らぬ外国で、それも危険と言われる国でたった一人で同じ所にじっと落ち着いて観光していられるほど”自信家”ではない。

 「この世界(旅行界)はチキンのように臆病な者だけが生き残る」

 それが尤も色濃く反映される国、その内の一つ今私はいるのだ。


 
 国一番の大通りであるブロード・ストリートを西の海岸沿いへ向かう。

 広大な敷地にあるアメリカ大使館、周辺に監視モニター、そして撮影禁止の看板。

 これほど厳重なアメリカ大使館をかつて見た事は無かった。

 アメリカ大使館からさほど離れていない国一番の高級ホテルマンバ・ポイント・ホテルは国連やらアメリカ関係者の御用達になっていた。

 海岸沿いまで一度出たのでまた市中へ戻る。


モスク


モスク周辺にUNの車両が、これだけ多くのUN車を見たのはここが始めて


市街



 色々な部分で神経を尖らせていたのだろう。午前中、ちょっとした観光をしただけでかなりの疲労感が自分でも分かるほど感じている。

 一度ホテルに戻って間合いを切って再出撃することにした。 

ホテルに一度戻って撮影



 私の泊まっているホテルのスタッフはきさくでフレンドリーだった。

 私が観光庁に行きたいという話をするとたまたまいたメンテナンスの男がそれならキャピタル・ヒル(政府関係の建物が集まっている、市の中心街からは少し離れている)にいけば分かるよと、シェアタク乗場まで案内してくれる。

 キャピタルヒルについてからも少し迷う、結局観光庁は廃墟を少しマシにしたような古ぼけたビルの一角にあった。

 誰もいないのか?と入っていくと案に反してスタッフが2人、地図を集めているので『モンロビアの地図はあるの?』と聞くと「古いものだけどたまたま(ビジネスの)中国人が地図をほしがっていたのでコピーをしていたから余りをあげるわ」と色よい返事が。

 彼女から貰って地図はA4のモノクロ、おおよそ日本ではこれを地図と言っていいのかという線図で街の中心部のみ示された略図と言っていいぐらいに簡素化されたもので10年以上前の情報しか乗っていないので内戦中に破壊されたり撤退したビルや企業が堂々と載っているという代物だった。
 
 これはこれで珍しから収集家冥利とやらはつきるのかもしれないが、「まともな首都の地図一つ作れない」というのがこの国の現実だった。


観光庁の中の地図
 


 ロンプラの情報にあった動物園、ここに行こうと情報を聞くと内戦で破壊されすでに閉鎖されているという。
 
 数少ない見所の一つがこれで閉ざされた。

 私はまた市中に戻ることにした。後は見残した分と博物館くらいがここでやることだった。

ブロードストリート





 博物館はまだ開いている時間帯。そこで博物館を後回しにして外縁部から地道に見て回る。

市の中心から少し離れて


目を転じると何もない




 また市中に戻る、この時私は一つの”ミス”に気付いていた。


ブロード・ストリートにあるモニュメント





 モンロビアの中心街は狭い、たった一日とはいえ頻繁にホテルとブロード・ストリートを中心に動き回ることになったために想像以上の露出をしていたのだ。

 背中に突き刺さる得体の知れない視線、それをいつからか感じ始めていた・・・



 通常の旅行者ならそんな事に気づかないだろう。

 ただでさえ研ぎ澄まされているプロフェッショナルならではの鋭敏な感覚。

 『近くに怪しい、不審な者がいる』

 いまや私の中のアラート(警報)が最大限の危険を告げていたのだ・・・




訪れた国立博物館とその裏手、国立博物館の展示品はほとんど盗まれ、パネルに内戦時の生々しい写真が貼られていた。
 



 今、国立博物館を見れたことでここでやる最低限の観光は終わっていた。

 『必要な分は観光できた』

 後は私の安全を確保するだけだ。

 私は自分の内なる声に従ってホテルに戻る事にした。


 これまで訪れた数多くの危険な国々。

 私が無事でいられた最大の理由は”運”だ。

 だが、ただ”運”だけで生き残ってきたわけではない、常に細心の注意を払い続けてきたからこそ、この運が活きているのだ。

 ”事が終わったら決して冒険はしない”

 それを臆病と笑いたければ笑えばいい、ただはっきりと言っておく、蛮勇を誇って一度ミスしたらそれでジ・エンドだ。

 どんなに強い奴でも『死んだら笑う事は出来ない』

 そして私はいつでも笑っていたいのだ。



ブロードストリートに並行して走る道




 ホテルに戻る道すがら・・・

 先ほどから感じていた視線がかつてないほど大きくなって私に突き刺さっているのが分かっていた・・・

 今いるのは街の中心街、まだ人通りの多い時間帯だ。


 『ふりきるか?』


 そう足を早めようとした時、不意に2人の男が私を呼びとめてきた。

 『来たかっ!』

 アドレナリンが全身を駆け巡る、先ほどからの視線の主はコイツラに違いない。そう、奴らが私を狙っている事は明白だ。

 ただ幸いなことにここは大通り、いきな手を出してくるという事はありえない。となると条件は向こうも一緒だがお互いは様子見からということになるだろう。



旧ホリデイ・インホテル。内戦で中がボロボロになっていたが宿泊可能だった




 私はわざとゆっくりと大きなジェスチャーで『何の用だ?』と彼らに向かい合う。急激な動きは相手の反撃を誘う。まずはゆったりとした雰囲気で余裕をみせつけてやるのがこういったときの常道だ。
 

 スーツを着た2人の男、大柄ではない彼らは中肉中背といったところだろうか?

 目つきは?

 それほど厳しくないがここの人間が”いつでも良心の呵責無く人を殺せる”という事を忘れてはいけない。

 私が彼らを値踏みしているこの間彼らも私を同じように測っているのだろう。

 
 ほんのちょっとの逡巡をおいて、彼らのうちの一人が胸ポケットをまさぐりだす。

 喧嘩の常道は先手必勝だがここは私のホームではない、アウェーだ。

 『何を出すつもりだ?』

 私は彼らの最初のアクションの帰結を見てから動く事にした。

 相手の出す物によってはこちらも腹をくくって対処しなければならない。

 そして彼の手には・・・

 何やら手帳が・・・

 『???』

 「警官だ、パスポートを見せてもらおうか・・・」

 『しまった、そっちか!』


 言い方は良くないが後進国と言われる国々で一番信用出来ないのは官憲というやつだ。

 国家権力と言う名の合法的な、そして不当な暴力、こういった国ではそれが常識だ。

 ただの無頼漢に絡まれた方がまだマシということの方が多い。


 「君は中国人だろう、パスポートを見せなさい」

 穏やかな中にもこちらの有無を言わせない、そんな口調だった。

 『中国人じゃぁない、俺は日本人だ、少し待て」


 ズボンの内側にあるパスポートを取り出す。

 彼らに手渡すと・・・

 その後問題になる可能性は高かったがここは仕方ないだろう。



 彼らは二人して私のパスポートを入念にチェックする。

 時間にしては数分もかかっていないはずだがやけに時間の経過が長く感じていた。

 ひと通りのチェックが終わる。

 今までの経験ならこういったあとは必ずといっていいほどパスポートは人質に取られなんだかんだと言いがかりをつけてきて金品を請求するというパターンだ。

 ここでもそれは同じだろう。

 「君のパスポートは・・・」

 モンロビアの・・・

 それもど真ん中で・・・

 国家という名の服を着た暴力が私に襲いかかろうとしていた・・・


 彼らはそのパスポートをこれみよがしに私に見せつけ・・・ 

 そして何事もなかったように私に返却する。

 『へっ?』


 「君の滞在期間は国境で1週間とされているけどビザは1カ月だからこれはイミグレにいったら簡単に延長できるよ。じゃあ~」


 『・・・』


 『・・・・・』


 『ただの職質だったんかい!』


 予想を裏切る展開、これは歓迎すべき事態は歓迎すべき事態だ。

 だが・・・

 解せぬ事が一つある。

 市中を歩いてアフリカ系の人間以外なのは私だけだったから目立っていたのは分かる。

 だが、恥ずかしながらこのプロフェッショナル、エレガントを売りに旅するツーリストだ。

 上に来ているシャツこそ東アフリカで買ったレアルマドリーのサッカーユニフォーム(レプリカです)だが、はいているパンツはトレッキングで有名なメーカーの物だし、インナーの下着はアシックスのスパッツ(注:外見からは見えません)、上はユニクロのTシャツの上に釣用のベストを着用している(サッカーユニフォームを上に着ているのでこれも外からは見えません)。

 この辺りでは見られない高級品に身を包んでいる分珍しいとは言えるかもしれないが・・・(上に書いたようにズボン以外の高級品は全く目に入りませんが・・・)

 間違っても職質を受けるような格好では無い。


 あえて考えるとしたら・・・

 上品で気品あふれるこの顔立ちが彼らの注意を惹きつけてしまったとしか思えないが・・・


 それでもこのシチュエーションは私を十分に合点させるとは言い難いだろう。


 私は思い切って彼らに聞いてみる事にした。


 『俺を点検したのは分かったけどなんでだ?』

 と・・・



 彼らは申し訳なさそうな顔を作って、そして若干バツが悪いといった感じで少しの間をおいてこう釈明してきた。



 「君が・・・君が・・・・」


 「あまりにも汚かったんで・・・不法入国して違法にこの国に滞在しているものだと思って・・・」



 『ほえっ???』



 『?????????』



 『問題があったのはこのワタクシ・・・??』




 あわてて自分の服装を見る、そういえばマリを出発してから移動に次ぐ移動で洗濯する余裕などなかった。

 悪路を走り続けほこりまみれ泥まみれになったままここにたどり着き・・・・

 そしてそのまま観光していたのだ・・・!



 私に対する職質、そして街を歩いていて突き刺さった数多くの人々の視線の数々・・・

 今、ここに全ての疑問が氷解した!


 現地人以上にボロボロに汚れていてあちこちと街を動き回る怪しげな東洋人・・・


 私が彼らであったとしても”こいつは変だ”と、思わない訳にはいかないだろう。




肉のスタンド・・・!




 答えが分かれば実に単純な事だった。



 『あっ!君たちの言うとおりだね、ゴメン・・・ちゃんと洗濯するよ!』


 と、私が自然と彼らに謝った事は無理からぬことだろう。



さらにモニュメント
 



 私は妙に得心してホテルに戻る事にした。



ホテルのテラスから・・・


夜景~。完全停電も光っている所はちゃんとある。






 そして戻ったホテルで汲み置きの水を大事に使って汚れた体と汚れた衣服、そしてほんのちょっぴり汚れた心を洗い流しながら今日の出来事を考えていた・・・





 危険な街、リベリアのモンロビア。



 どんな相手も不審者と疑ってかからなければならないこの街で・・・




 『一番怪しかったのは実はこのプロフェッショナルだったのではなかったのか?』


 と・・・・




ベッドカバーはなんとピカチュウ!



 エレガントが売りなのにぃ・・・・






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