マリ
2005.11.19(土)-20(日)
ガオの次の目的地はトンブクトゥ、バマコには直行せずに一度迂回する形となる。
首都狙撃手たるこのプロフェッショナルがわざわざ回り道をするにはもちろん理由がある。
トンブクトゥ・・・
西アフリカの歴史的遺産ではハイライトではなかろうか?
ニジェール川交易のサハラ砂漠の南の終点、かつては”黄金都市”としてヨーロッパの探検家を魅了したこの場所・・・
いやしくもヨーロッパ・エレガント・ツーリストを名乗るこのデューク・東城としてもかかせないポイントである。
決して雨季だと船便しかなく、今は乾季なので簡単に4WDで行けるから等という安易な理由で決めたわけではないのだ。
それにたまたま昨日で会っていた女性から最新の情報も入手している。
イージーなミッションだ。
昨日聞いていた4WDの出発は14:00時、午前中はガオを散策し、チェックイン後のホテルで少しのんびりしてから向かう。
途中客引きが数人「トンブクトゥ!」と声をかけてきたが”すべてボリ・プライス”、この辺りは先に情報を得ていたので間違いようがない。
最初に当てを付けていた4WD乗り場へと向かう。
その4WDは前座席15000CFA(約3000円)、後部座席10000CFA(約2000円)、聞いていた情報通りだ。
前座席に乗りたかったがあいにく先客がいた。お金のセーブと割り切ってここは後部座席のチケットにする。
そして私の乗る4WDは・・・
『・・・』
『・・・・・・』
『後部座席って??』
見間違いではないだろうか?
私はあわてて確認する。
「ジャポネ、あれがトンブクトゥ行きだ・・・」
『へっ?』
どうやら見間違いではないようだ・・・
でも・・・
『あの”後部座席という名の荷台に人が乗るとしたら荷物は?』
私の疑問をさっそく解き放つようにどんどんと荷台に荷物が積まれていく・・・
『???』
荷物を積載中
「ジャポネ、お前の荷物はこれか?」
私がスタッフに荷物を預けると落ちないようにロープで縛着を始めていく。
そしておさまりがよろしくないと見たのか?
スタッフは我々の荷物の上でストンピング(ようは荷物の上でジャンプ)を始めて余白に荷物を押し込め始める・・・
『ぎゃああああ・・・・やめてくれぇ~!』
確かにメインバックに壊れ物は入れてない、だがそんな形で足蹴にされたらフレームも曲がるし下手すればバックが壊れてしまう!
私はあわてて荷物の上でジャンプするスタッフを止めてやめさせようとする。彼は一度こちらに注意を払い・・・
そしてまたジャンプ!
『こっこの野郎!』
再度私が止めるとようやく諦めたのか?とりあえず荷物の上でのホッピングは何とかストップしてくれた。
『ふぅ・・・・』
しかし・・・
こんなにガッチリと荷物をやることも・・・
黒いバックがこのプロフェッショナルの!
そしてまたさらに荷物が加わりなんだかんだで3時間以上この作業を続け・・・
ようやく出発。
もう夕方にさしかかる頃だ。「Time is no money」のこの大陸、毎度の事ながらうんざりさせられる。
で?私の後部座席は・・・
今更言うまでもないだろうが・・・・
4WDにうず高く積まれた荷物の上に・・・
現地人10人以上と一緒に・・・
『ちっちくしょう!ボラれてもちゃんと後部座席のあるのにしておけば・・・・』
4WDの上に積まれた荷物の上にこれから乗って移動するのだ。
しがみつく場所はというと積まれた荷物とそれに絡んでいるロープ。
それを手放すと路上にダイビングというのが今回の移動の趣旨だ。
考えても見てほしい。
私の職業はツーリストであってスタントマンではない。
荷物にしがみついて一晩移動するというのはエレガントな私のスタイルには反するのだ!
これで何時間も移動とは・・・、やってられん。
そんな私の感情とはお構いなしに4WDは出発進行!
出発後の景色
そして街を離れてしばらくした頃にバイクのポリスが追っかけてくる!
『???』
怪訝に思って周りに確認すると「どうやら荷物の上に人を乗っけて移動するのはアウト」らしい。
『そんなこと最初からわかってるだろう・・・』
追っかけてくるポリスにつかまってガオに戻る、これからのストーリーがみえみえだ。
『はぁぁぁぁ~、これじゃあ双六と一緒だ、また振り出しか・・・』
これも毎度の事ながら旅行者をいらいらさせる出来事だ。
そして後ろから追ってくるポリスに合わせて4WDはスピードを・・・
スピードを・・・
スピードを緩めない!
『えっ?どうするの??』
私の予想に反して4WDは急に加速を始めて逃げ切りを図る!!
『うぎゃあああぁぁぁぁ~』
あますことなく地面の振動を伝えるこの4WDで・・・・
そんなことされたら・・・
『おっ!落ちるぅ・・・!た・す・け・てぇぇぇぇぇぇぇ』
私は必死に荷物にしがみつく。
『日本ならポリスが後ろから追ってきたら止まるのが常識だがここではその真逆らしい・・・』
そして10分ぐらいたってなんとか振り切った頃に・・・
荷台で歓声が上がる!
『俺達は逃げ切った』
そんな感じだろうか?
私も含めて”ただ乗っていただけ”なのは間違いないが・・・
そしてまたしばらく進んだ後・・・
荷物を積みなおす・・・
荷物を積みなおす4WD
『なぜ?』
人が降りたわけでもない、たぶんおさまりが悪かっただけだとは思うが出発前にストンピングまでしてがっちり積めていたのに・・・
なんなんだ、この手際の悪さは!
そしてしばらく作業をしてからまた進み始める。
おおむね道路はおんな感じだったかな?
日は暮れてこのまま夜を徹して進み始めるかと思った20:00時に一度停止。
今度は食事休憩に入る。
何もない村、現地人は当たり前のように食事を摂っていたがこちらはここでは異邦人、この先どういう動きをするのか全く読めないまま星空を見上げながらただただ時間ばかりが経過していく。
今まで乗っていた人数が多かったのだろうか?
この時追走車が合流してくる。
そしてまた荷物を積みなおす。
『・・・』
『・・・・・・』
『まっ、またか・・・・』
私がいまやっているのは”ただの移動の筈”だ。
そして移動というのは進んでなんぼの筈だ。
だが毎度毎度イレギュラーに止まって荷物を積み直して出発となるとそれだけで時間が無駄に過ぎていく。
乗っている4WDはいつか出発するというのは分かるが・・・その”いつ”というのが止まる度に読めないというのはそれだけでストレスだ。
そして『いつ出発するのか?』まったく読めなくなり始めた22:00時にまた出発!
そして数時間悪路ではねまくる路面の上を走る4駆の荷台の荷物に必死にしがみついた後・・・
03:00時に止まって今度は仮眠休憩に!
『ぐむむむむ・・・』
『何故こんな時間に休憩する!』
『それならさっき食事した所で休んでいればいいのに・・・!!』
そしてこのところ停車すると自動的にパッケージになった感のある荷物の積み直しをスタッフが始めたのでメインバックを一度下してそれを枕に地面に大の字になる。
『ふぅぅぅぅ・・・・』
『しかし今一体どこなんだ?』
『そして後どんだけ荷物にしがみつけばいいんだ?』
そんなことを考えつつ、ままどろみに落ちて行った・・・
疲労は十分にしているはずだが夜が明ける頃に目が覚める。
朝の景色4連発!空の色が独特な感じを出している
周りを見渡すと昨日乗ってきていた4WDがいない、私以外の乗客もここに残っているので心配はいらないのだろうがちょっと不安になる。
『メインバックを下しておいて良かった・・・』
旅行者は自分の体と持っているバッグが全てだと言っていい、旅行中に“自分の荷物が手に届く範囲にない”ということほど自分を不安にさせることはないだろう。
『だが、いつ戻ってきやがるんだ?』
砂漠の中の寒村でボーっと景色を眺めつつ、時間を潰していると。1時間くらいたった頃だろうか?4WDが帰ってくる。
『これでようやく出発か・・・』
進みたいという気持ちがある、今待つことはただの苦痛だ。
私はメインバックを手に4WDに近づいていく。
移動停止とセットで荷物の積み下ろしを繰り返すその4WDは例によってまた荷物を積みなおし始める。
始め・・・
ない!
『えっ?』
昨晩積み直した時にこれから乗る人間の分もほとんど終わらせていたのだろう。
私のバッグを無視してアリのように乗客が4WDの荷台に群がり、めいめい思い思いの場所を確保する。
このプロフェッショナルと言えば30Kgあるメインバックを自分のサイドに置きながらただどんどん埋まっていく荷台のスペースを眺めていただけだった・・・
『あっあああぁぁぁぁ~!』
こんなときに限って荷物を積み直さずに乗客を乗せるなんて・・・
『あんまりだぁ・・・・!』
とはいいつつここから先に進むにはこいつに乗って先に進むしかない。
とはいえ30Kgある荷物をフリーな状態で持ってスペースの無くなった荷台に乗っかるのは論外だ。
私以外は「出発準備完了!」となったこの4WDだがもう一度私の荷物を積み直させなければいけない。
そこで私が荷物をさして『こいつも頼むよ』とスタッフに話していると助手席に乗っていたアラブ系の男が何やら言ってくる。
何と言っているかは良くは分からないが推測は出来る。
「もう出発するのになんでいまさら荷物を積ませるんだ」というのが彼の意見だろう・・・
一晩過ごした村
私に会ったことのある人間は私を評してこういう、「あの人は天使(エンジェル)だ」と。
穏やかな瞳、優雅な態度、激怒という感情を母親の胎内に残したかのようなその物腰からは私が怒っている姿は全く想像出来ないということなのだ。
だが・・・
今にして思うと私はこの時これまでの移動の疲労で相当イライラとしていたのだろう。
私はフランス語を十分に解せず、そして彼らは英語を解せない、言葉が通じないことのストレスもある。
そしてあまりにもランダムに停止と出発をし、意味不明に荷物の積み下ろしを繰り返される事にもすでに腹を立てていた。
そしていよいよ出発のタイミングで私の荷物だけスカされてしまったという間の悪さ・・・
そこで、助手席に乗って何一つ不自由なく移動していた彼が・・・
私にアレコレ言ってくるのがどうしても気に入らなくなっていたのだ・・・
私はスタッフと話すのを中断し、横やりを入れてきた彼に向かい合う。
そしてやにわに彼の胸倉を掴み少し持ち上げて車の助手席に叩きつける!
彼の眼にはあきらかに”怯え”という表情が見てとれた。
天使のルックスを持つ異邦人の突然の暴力的な行為。人を驚かせるには十分な行動だった。
もちろんこの時の私の行動は是とは出来ない。
それにそもそも私は暴力に訴えることも嫌いである。
どのくらい嫌いかというと「3度の飯より暴力を振るうほうが嫌い」というぐらいの物だ。
そう、エレガント・エンジェルと言われるこのプロフェショナルだが・・・
チキンのくちばしに隠し持った牙が・・・
今回に関しては本人の意に反して急にに現れてきたのだ!
『やっちまったか・・・』
叩きつけた後ふと冷静さを取り戻す。自分の中に眠る獣の目覚めにより起こした暴力という名の行為
だが、一度事を起こしてしまったらそう簡単には引けない・・・
”犀は投げられた”のだ。
彼は叩きつけられたまま助手席ににじり寄る。
私は目線を切らさない。当然予想される反撃に備えなければならないからだ。
彼がジェスチャーで「やめてくれ」と訴えかけてくるのが分かる。
こちらとしては衝動的に叩きつけてしまっただけのことだからこれ以上暴力をふるうつもりはなかったがこうなってしまうと膠着状態に入ってしまっていた。
それを見とがめたのだろう。スタッフが私と彼を止めようと2人の間に入って話しかけようとした時・・・
私の目線は一瞬彼から離れていた。
そして彼はその瞬間を狙って、助手席のドアを急に開けて私にぶつけてきたのだ!
『チッ、こいつもやるつもりか・・・』
自分のしたことに非があることはすでに分かっている。だが・・・
その行動が私のチキンなハートに火をつけた!
ドアがぶつかった所で所詮は面だ。痛みはない、すばやく彼に視線を戻し目で威圧する。
ここでこうなったのも何かの縁だ。
お前が望むなら・・・とことんやってやろうではないか!
『今の俺はただのチキンではない・・・!それを・・・こいつの体に刻みこんでやる!』
そして彼はおもむろに助手席のサイド・ポケットから・・・・
猟銃を取り出す!
『・・・』
『・・・・・・』
『・・・・・・とことんにも程がある・・・・(涙)!』
こうなったら・・・
やられるしかないのか・・・?
そう思いかけた瞬間、周りのスタッフが危険と見てとったのか?彼を抑えにかかる。
だが、彼の手から銃は離れない。
『・・・・』
『やっやばい・・・!!』
目線を切らせたら負けだ。
しばしそのまま睨みあっていると彼を止めに来たのと別のスタッフが私と彼の間に入ってお互いをなだめにはいる。
『・・・』
『・・・・・・』
考えてみよう。
今回の一件、どう考えても悪人はこっちだ。
彼が何か言ったにせよ手を先にあげてしまったのはこちらの不覚だ。
チキンのくちばしに隠し持った牙、そもそもチキンに牙なんてないだろう・・・
『こうなったら・・・・ここはとことん穏便に済まそう』
猟銃を目の前に簡単に趣旨変えをしたところで問題はあるまい。
私は大きく肩をすくめて彼に笑顔を向け『こっちもやりすぎてすまなかった』と表情を作り、荷物を指差す。
彼も安堵したのだろうか?銃から手を離し、私に笑顔を向けてくる。
『ふぅ・・・・助かった・・・』
何とか彼との問題はこれで解決だ。
だがそもそも”荷物をただ積むだけでなんでこんなに揉めてたんだ”という点に関してはこのプロフェッショナルならざる失点と言うべきであろうか・・・
ただ、彼と揉めたことから新しい副産物が発生していた。
「何かあったら腕力に訴える暴力的な東洋人」
と大きな勘違いをされたのか?
助手席でそれまで色々と言っていた彼が私の荷物を指差してテキパキと積載させ、そして荷物の上とは言え比較的いいポジションを私の為に提供してくれたのだ。
『ラッ・・・ラッキィ!』
ちなみにこの上に乗ってずっと移動していました。
ここはどこだかわからないが揉めた村で
その後4駆は順調に走る。
4WDの上から
時折停車するが今の私は何故か荷台VIP、止まるたびにドライバーと助手席の男が何かと気をかけてくる。
後部座席に一緒に乗っている連中にはちょっと申し訳なく感じたくらいだ。
そして14:30時、トンブクトゥに到着。
助手席の男が満面の笑みをたたえてこちらに向かってくる。
そして何かまくしたてた後足早に去っていく。
その態度、表情は「一刻も早くこの得体のしれない暴力的な東洋人と別れたい」ということが目に見えてわかるぐらいだった。
私は荷物を持ち、街の中心部から少し離れた目星をつけたいた安宿に向かいながらこう考えていた・・・
色々とあったが・・・
今回のこの移動・・・
「どう考えても悪人はこのプロフェッショナルであったな・・・」
と・・・