ハレのち曇(ライプツィヒ、ハレ:ドイツ)

 ドイツ


2009.03.11(水)


 ドレスデンを出発してライプツィヒへ。


 旧市庁舎に新市庁舎
 

 有名な音楽家のバッハの活躍したトーマス教会。遺体もここに眠っている
 

 ロマネスク様式のニコライ教会。中はカラフルでエキゾチックな雰囲気
  

 一見凄そうだが一反木綿のようにペラペラなビル。
 


 ドイツで三番目に古い大学が設立され、ゲーテやニーチェ、森鴎外等蒼々たるメンバーがこの街で学んだだけでなく
バッハを始めシューマン、リスト、ワーグナー等の多くの音楽家が偉大な業績を残し、旧東独時代にここにあるニコライ教会で月曜毎に行われた祈祷集会が民主化要求のデモへと発展し1989年のベルリンの壁崩壊の大きな一歩となったという経緯を持つ街だ。

街の雰囲気も気に入りなにやら心は晴れ晴れとした感じになってきた。


ただ、この街は通過に過ぎない。

今日の最終目的地は別だ。


 この信号のピクトさんは有名な「アンペルマン」。
 

 



ちなみに旧東ドイツでこの子供のシルエットをしたアンペルマンは現地の人達にも人気で、ドイツ統一の際に一端廃止の方向にも動いたがアンペルマンを愛する人達の声もあり現在も旧東独地域で使用されている。


 時間はまだ十分にある。
私は最終目的地に行く前に、この晴れ晴れとした気分を高めるためにさらにもう一つ都市を経由する事にした。

 ガイドブックの扱いはそれ程大きくない“ハレ”という街がそれだ。

 ガイドブックに載っていた旧市街の中心のマルクト広場の写真が気に入った事もあるが、この“ハレ”というネーミングのこの街は今の私の心情に最も適していると考えたからだ。

 そのハレの街並。

 旧市街の入口


 ガイドブックに載っていたのと同じような感じで撮影したマルクト広場。そしてドイツによくある木組みの建築。
 

 マルクト広場周りにあったビルの一つ、角は毎フロアごとに彫像が・・・
 


 モーリッツブルク城
 


 ちなみにここはバロック音楽の巨匠ヘンデルの故郷でもある。

 私の乗る列車まで後40分、歩いて15分程度で駅につくのでまだ時間は残っている。
 私は気に入っているマルクト教会の脇にある坂を上がりながら、ハレで晴れ晴れとなった気持ちで次の目的地の事について想いを巡らせていた・・・

 マルクト教会を下から眺めて



 「ペッ!」


 ピチャッ・・・


 突然私の前に何か上から唾が降ってきた。


 「んっ??」


 上を見上げると教会の横の踊り場に子供が何人かいて下を見ている。


 「狙ってきたのか・・・???」


 確証は無い、唾は私の居る所から3mぐらい先だ。たまたま遊んで唾を吐いたのが私の前に落ちてきたというのが妥当な判断だろう。

 私はもう一度前を向き、坂を登り始める。


 と・・・



 ドサッ!!



 「!」



 私の肩に後ろから何か土の塊のような物が当たってきた!!



 「クッ・・・」



 犯人はあいつらしかいない。上を見たい誘惑に駆られたが、私は前を向いたまま悠然と歩みを進める。
 当たったのに気付かない振りをわざとしたのは彼等の警戒心を解いて、当たってなかったのかと思わせ油断させる為だ。
 そして坂を上りきったあとで教会脇の踊り場の方にゆっくりと歩みを進める。人数は5人、日本で言う中学1,2年生といった所か。私がただこの踊り場の景色を楽しみに来ただけと思わせれば近づいた後一気に掴まればいいだろう。

 私がゆっくりと近づいていくと20mぐらい手前で子供が私の方を向き、何やら叫びだして逃げ始める。


 「こっこのガキがぁ・・・」


 このまま追いかけていくのは具合が悪い。私は彼らが教会の影に入るのを見届けてから反対側に転進する。
 この教会は正面がマルクト広場に面していて、側面と裏は踊り場になっている。回り込んで行けば彼らと鉢合わせる可能性が高い。それに何よりもこのプロフェッショナルに「走る」等という疲れる選択肢は入っていない。

 反対側に回り込むと走ってきた子供達は私に気付くと教会の脇にある階段を降りてさらに逃げていく・・・


 「ちっ・・・」


 私も小走りに階段を降りていく、彼らは階段を降りきったビルの角で一度私を見て、そして猛ダッシュをして逃げていく・・・


 「くぅぅぅ・・・」

 さらに私は角まで追いかけるが流石に若さのせいか、彼等の逃げ足は速い・・・

 そしてこんなことで既に無駄な時間がかかっている。列車の出発時間を考えると掴まえるまで追い続けるというのはちょっと馬鹿馬鹿しくもなってきた。

 「大好きなドイツで餓鬼共にこんな目に合わされるなんて・・・」

 憤懣やる方なしといった感じだ。ハレで折角晴れ晴れとなった気分もこの一件で台無しである。
 私は今降りたばかりの階段を登り、教会の脇に出て鉄道駅に向かう事にした。


 すると私の目の前の道路にさっきの子供達が見え始めてくる。
 私を完全に撒いたと思ったのだろう。ビルを大きく回りこんでマルクト広場に戻ってきたのだ。彼らは息を切らしながら仲間が全員集まるのを待っている。

 「こっこれは・・・」

 犯罪者は必ず現場に帰ってくる。この鉄則はここでも活きていた。
 私は帽子をやや深めにかぶり直してゆっくりと彼らに近づいていく、早い動きというのは視界に捉われ易いからだ。
 5m程度に迫った頃だろうか。彼等の一人が私に気付いて大声を上げて仲間に注意して逃げ始めた。私は素早く近づいていってその中の鈍そうな一人を掴まえる。

 子供は5人、私に実際に当てたヤツは一人だろうがこの際は誰でも構わない。一人捕まえて徹底的に締め上げてやるつもりだった。

 今まで周った国で私に物をぶつけてきたのはコイツらが初めてと言うこともあるがそれだけではない。
 もし私が彼らを逃がせばこの先外国人を見かけたらゲーム感覚でまた同じ事をやるだろう。それを防ぐ為にも「こういった行為の代償が何を伴うのか?」彼らに思い知らせてやらなければならない。

 捕まえた子供は何やらドイツ語で私にまくし立てている。分る訳は無いが「俺はやっていない」とでも言っているのだろう。

 私は彼の袖をひっぱりながら「ポリス」という言葉を話の節々に入れていく、これなら彼も私のやろうとしている事が理解でき心理的にもプレッシャーがかけれるからだ。
子供は私の取ろうとしている行動に抗い逃げようとする。子供にしては発育がよく 身長は私よりやや低い程度、体重も50kgは超えているだろうが、そこは大人と子供だ。彼が私の力にかなうわけが無い。

 彼はさらに大声でわめき始める。こちらはそれほど時間があるわけではない。こうなったら次の作戦だ。私は突然日本語で、それも彼に負けないぐらいの大声で厳しい口調で彼を詰問し、警察にいくという強い意志を示す。
 子供はついに大声で泣き出し、日本語を大声で叫んだ事で周囲の人々も我々に注目し始めている。そして一人の若い男がこちらによってきた。
 私はこのシチュエーションを待っていたのだ。

 男に素早く「英語は話せるか?」と聞き事情を説明する。彼らが5人いたこと、後ろから肩に土をぶつけられた事。彼は子供の言い分も聞き「彼は当てたのは俺じゃない」と言っているよと通訳してくれたが、実際当てたのが彼であろうがどうだろうがそれはそれ程重要ではなかった。

 私は彼に再度説明する。「私はこの街に観光に来ていてただ教会脇の坂を上っていたのに上から子供に土をぶつけられ、彼らは謝る事もなく逃げ出していったので憤慨している。実際にぶつけたのは一人かもしれないが誰がやったかなんて後ろからやられているから見えるわけが無い、ただこの子供は逃げ出した彼等5人の内の一人であることは確かだ。彼を警察に突き出して残りのメンバーも全部上げ、こういった事を、それも外国人に対して2度としないようにさせなければならない。」 と、いうのがその内容だ。

 私がその若い男と話しているとさらに付近にいたおばさん2人が寄ってきて、その男から内容を確認すると「じゃぁ警察を呼んでくるね」といってその場から離れていった。

 私はおもむろに時計をみる。いつの間にかあれから15分ぐらいたってしまっている。駅までここから15分、そして残り時間は25分。これで列車に乗り遅れたら最悪だ・・・

 警察はすぐに我々の所に到着。後ろの座席に子供が1人、さっき逃げた5人の内の1人だ。仲間の身を心配したのか、一緒についてきたのだろう。
私が手を掴んでいた子供が警察をみると泣き出しながら大声でドイツ語で彼らに訴えている。残念ながら警察達は英語が話せなかった。私は英語を話せる男にその子供が何を言っているかを通訳してもらい、そしてこちらの事情を警官達に話して貰うようにお願いした。

 警官も事情を飲み込んだらしく、私の方に申し訳なさそうな顔をしている。

 私は先程から通訳してくれている若い男に警官達にこう伝えてくれるようにお願いした。
「子供だからこそ若いうちにこういった行為がどのような結果をもたらすかを学ぶ必要がある。だが彼らがそれを理解した上できちんと私に対して謝罪をしてくればそれ以上は必要ない」
と・・・

 彼はそれを警察に告げると、今は2人になった子供は私の所にやってきてドイツ語で「エントシュルディグン(すいません)」と言ってきた。

 「ふぅぅ・・・」

 彼等の差し出した手を握って笑顔を見せる。彼らは5人の内の2人、後3人いるが流石にそれまで呼び出して決着をつかようとすると私は列車に乗り遅れてしまう。もう頃合というやつだろう。
 最後に私は警官に「残りの3人にもよく言い聞かせてくれ」とお願いし、そして無関係なのに私の通訳をしてくれた若い男に「ありがとう」とお礼をいって広場を後にした・・・

 
 時計を見ると発車時刻まで後10分・・・

 私は出来る限りの早足で駅に向かい、そして残り3分を切った所で走り出す。
 列車には出発1分前に乗り込み滑り込みセーフ・・・


 子供を追いかけるのに走らなかった私だが、ここで走ってしまったので息は絶え絶えだ、しかし大好きなドイツでこんな目に遭わなければならないなんて・・・





 ハレで出会った突然のアクシデント、結局私の計画に何一つ狂いを生じさせはしなかったが・・・






 列車の中でこの一件を思い返して、私はこんな感慨に浸っていた・・・





 「今日一日の心の天気、“ハレのち曇り”であった」




 と・・・
 




 ハレで見たビル、壁に描かれた絵がキレイだった。


 








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