駆引きのボーターライン(ラゴス:ナイジェリア→ポート・ヌボ:ベナン)

ナイジェリア ベナン


 



2005.10.19(水)

 YMCAを朝9:00時に出発してTBSで乗換えてミニバスでMile2へ向かう。

 ここに到着した時と同じ地域に国境行のプジョー乗場があるのだ。これを最初に知っていればラゴスインの時にも困らなかったのに今更それを言っても「後のカーニバル」だ。

 国境であるセメ・ボーダー行のプジョーはすぐに見つかる。ナイジェリア-ベナン間はメジャールートだけあって何時行ってもシェアタクが捕まるというのが良い感じだ。
 料金を聞くと2000ナイラと言われ一瞬ビックリするが、よくよく聞くとこれは貸切の値段、シェアだと300ナイラと聞いてほっとする。

セメ・ボーダー行プジョー
 

 これでナイジェリアを無事出国してベナンにすっと入れれば良いのだが・・・

 ここでは用心しなければならない事があった。


 そう、このナイジェリアとベナンを結ぶセメ(ナイジェリア側)・クバケ(ベナン側)ボーダーは賄賂請求で悪評高い国境だったのだ・・・

 情報ノート、インターネットでの書込み、いい噂は全く聞かない。


 『何かが起こる予感!』

 
 私の中の危険信号が警告を鳴らす、中部アフリカで鍛え上げてきた賄賂請求撃退のテクニック、相手がどうきても対処できるように頭の中をトレースして手順を組み立てておく。そして万が一と思って貰っていたラゴスの日本領事館の領事の名刺もすぐ出せる場所に忍び込ませる、相手が強硬な手段に出た時、『政府関係者をしっている』というのはその後の展開でアドバンテージになるからだ。

 プジョーは10:30に国境へ到着、さあ賄賂との闘いの始まりだ・・・

 プジョーから降りると同乗していた恰幅の良い黒人男性が私に話しかけてくる、聞けばイミグレ(入国管理官)の人間だと言う事だ。

 私を旅行者とみてとったのか?親切にも事務所まで案内してくれるということだ・・・

 『?』

 幸先は良いが・・・うのみにする訳にはいかないだろう。何か”仕掛け”があるのかもしれない。

 だがこれといった代案のないまままず残っているナイジェリアの通貨を両替して、彼と一緒にイミグレに行く事にした。

 彼は妙にゆっくりと進み、20分ぐらいかかってようやく到着。

 建物の中に入るとまずは検疫からスタート。

 ここでは早速私の検疫書類の不備を突き賄賂を請求、期待通りの展開だ!

 こちらも『書類が不備なら何故俺を入国させた?そんなことはビザを取る時も入国時も言われなかったぞ!(実は聞いてます)』と強硬な態度をとって抗弁する。

 役人は検疫のポスターを見せながら「ここに受けなければいけない種類が書いてあるだろう?」と難癖(というか順当な理由)を述べてきたが 『俺は旅行者で英語が読めないのにそんなこと分かるかっ!(注:会話は英語ですし申請書類も英語で書いてます)』と堂々と言いきると相手は舌打ちしたような表情で諦めていく。

 まずは初戦は快勝だ!

 そして第2戦はイミグレで、窓口で良く分からない賄賂請求をされるがこちらが強硬に突っぱねるとあっさりと引き下がる。

 「Give me chocolate」感覚か?

 第3戦はカスタム(税関)、うっとおしい所持品検査をされたあと「所持品検査をしたから」という得体の知れない理由でお約束の賄賂請求!

 『お前らが余計な事をしたくなかったら最初からそう言えば俺は所持品なんか見せなかったんだぜ』とここも突っぱねるとあっさりと引き下がる。

 これまで情報ノートで見ていた極悪非道ぶりというのが嘘のように簡単に断れている、これでいいのだろうか?

 だが、まだ別のトラップが仕掛けられていた。

 これまで同行してくれていたイミグレの男がちょっと「奥の部屋にいいかな?」と聞いてくる。

 何を仕掛けるのか?興味もあったのでここはのこのこと着いていく事にする。すると

 「これまで賄賂請求を断れたのは俺が一緒にいたお陰だぜ(注:賄賂請求撃退に彼はなんの貢献もしていません)、だから2000ナイラくれないか・・・」

 『・・・・』

 『・・・・・・』

 やっぱりそう来るのね・・・

 それに2000ナイラくれって俺がナイジェリアの通貨を全て両替しているのをお前は目の前で見ていただろうに何故ナイラ請求で・・・

 私はそれまで彼に向けていた穏やかな表情を一変させる。そして突き放すようにこう伝える。

 『OK、君の請求が正当なものかどうか、ここのチーフに君の身分と共に確認させてもらうよ!』

 そして彼の返答をまたずにすたすたとイミグレの部屋に戻って『チーフを呼んでくれ』とリクエストをする。

 何事かと思って出てきたチーフに簡単に『彼が2000ナイラくれって言ってきてるけど、これは払う必要があるの?』と笑顔で訴えるとちょっと慌てた感じで「そんな必要は無いから安心して行ってくれ」と答えてくれる。

 イミグレの建物を出る間際に振り返ると彼のちょっとくやしそうな表情が・・・

 これで4連勝!

 建物の外に出てベナンを目指すも2回ほどパスポート・チェックがあり、その都度賄賂請求がある。

 ただ一回イミグレのチーフにあって話をつけているので「さっきイミグレのチーフから払わなくていいと言われたばかりだから戻って確認しようか?」とプチ・脅迫をすると簡単に拒否できる。この程度の賄賂請求ならただちょっと手間暇がかかる程度のプチ・賄賂請求だ。中部アフリカを潜り抜けた(注:潜り抜けただけで実は勝ってたわけではありませんが・・・)私の敵ではない。

 そしていよいよベナン側のクバケ・ボーダーへ!

 
 『ふぅ~・・・・!』


 中部アフリカ地域、そして危険と噂されるナイジェリア、これをようやく乗りきったのだ・・・

 この先まだ危険と言われる国は残っているが・・・

 次の予定のベナン、トーゴ、ガーナに関しては特に悪評も聞かない、私からみたら”ただの国”だ。

 これまでは「国境越え=賄賂請求」という図式が高い確率でなりたっていたが、これからは違う。

 ようやくツーリスト本分の観光を存分に出来る国が始まるのだ・・・

 『これで終わった・・・』

 今の私の偽らざる本心である。

 そう、危険地帯を抜けたのだ!

 煙草に火をつけ、それをゆっくりと吸ってから足取りも軽やかに、ベナン側のイミグレへ向かう。


 ”解放感”

 もう何も起こるはずもない。


 パスポートを笑顔で見せる。

 すると・・・

 数人で私を取り囲み・・・

 「500CFA!(西アフリカセーファーフラン、約100円です)」

 『・・・』

 『・・・・・・』

 へっ?

 ベナンに入った筈なのにここでもでしたか・・・!!

 だが・・・

 解放感に満ち溢れてしまったとはいえそこはこのプロフェッショナル

 『お前らここはベナンだろう、ナイジェリアで賄賂請求されるならまだしもいい加減にしろよ!』

 と瞬時に”怒ったフリ”をして拒絶するとおとなしく引き下がる。

 そしてまた外を歩いて次の検問でパスポートを見せると・・・

 「5000CFA(今度は1000円)!」

 うぬぬぬぬ・・・

 請求するにしては額が多すぎるぞ!それにベナンでも立て続けにこんな目に遭わされるとは・・・

 だが、その請求額が私のいたずら心に火をつけた。

 満面の笑みを湛えてこう答える。

 『ありがとー、5000CFAも僕にくれるんだ。君って優しいね~』

 後ろを通り過ぎる現地人は爆笑している。それはそうだろう、賄賂請求されている旅行者がお金をくれと思いっきりせびっているのだ。

 すると彼はこけにされたと思ったのか、急に激怒してこちらにつっかかってくる。

 『良しっ!』

 相手が激怒した時はとりあえずこちらも激怒する。それも相手以上の大声でだ。


 『お前ふざけてるんじゃねえぞ、ビザも正当に取っているんだ、レシートがはさんであるからちょっと俺のパスポートを広げてみろ!』

 と言い、彼がパスポートを広げてページを探している時に『ここだっ!』とレシートを取りだしながら強引に彼の手からパスポートを奪い返す。

 そして彼の目の前にレシートを突き付けて

 『お前これを見ろっ!これにちゃんと金を払ってさらにここで金を払わなければいけない理由はどこにもないだろうがっ!お前はそういう”ただの旅行者”から金を踏んだくるつもりか?それにここはベナンだろう、もうナイジェリアではないんだぜ。よぉ~く分かった!お前じゃ全く話にならないからボスを読んでもらおうかっ!』

 中部アフリカでのレッスンはここでも生きてくる。

 するとすぐに奥から大声が聞こえる、「いいからそいつをもう行かせろっ!」というのがその内容だ、おそらくボスからだろう。

 賄賂請求をした係官は苦虫を噛み潰した様な表情だ。

 これでナイジェリア・ベナン合計6連勝・・・

 賄賂請求で悪評高い国境を、完全に乗り切れた瞬間だ・・・


こちらはベナン側のキバケ・ボーダー
 



 次の目的地はベナンの首都ポート・ヌボ、去りゆくボーダーを眺めながらこれまで過ぎてきた中部アフリカ地域を思い出す。


 思えばあの地域では・・・

 『賄賂請求をどう断るか』が旅行の最大イベントだった・・・


 そして私はこう思う。


 賄賂拒絶が旅行のハイライトだなんて・・・


 『そんなの断じて旅行ではない!』


 と・・・






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