日本
※JC スペースコブラ 第1巻を知らないと全く意味不明な記事になりますのでその際は読み飛ばして下さい。
2016.10.10
関東・某所・・・
しかしこの世はつまらない。こう文明が進歩しちまっちゃ・・・
人間なんてまるで時計の歯車のようなもので、毎日がまるでコピーされたみたいにぐるぐると回ってやがる・・・
ジリリリリリリリ・・・
「ふぁ~、朝からうるせぇなぁ~」
ガツッ!
「いてっ!」
『オキロ!ジョンソン、イツマデネテヤガル!』
「ベン!」(旧式の南極Z型ロボットの名前)
『朝食ハデキヤガル、タベロ』
「痛ぇなぁ、てめえ、起こすたびに毎回毎回目覚ましをぶつけやがってこの俺になんの恨みがありやがる!」
『イイノカ、ジョンソン。会社ニ遅レヤガルゾ』
「馬鹿野郎!俺のシフト表を見ろ!今日は休みだぜ、神様が働いてたって俺だけは寝てていい日なんだぜ!」
『ソイツハスマナカッタ、コーヒーデモイレテヤルゾ』
「ふぅ~」
しかし、金さえあればこんなポンコツ早いとこスクラップにしてオリエント興業製の美人アーマロイドでも買うのに・・・
んっ?金??金???
ボーナスだ!!
えっとえっと・・・
「たったの31クレジットか・・・、これじゃあTLDだっていけやしない・・・」
『ソウクサルナジョンソン、トリップムービーデモミテキタラドウダ?』
「トリップムービー?自分で自分の望む夢を見させてくれるっていうあれか?でも高いんだろう?」
『ショウショウタカクテモシゲキガエラレレバヨイジャナイカ」
「それもそうだな・・・」
俺は着替えて外に向かうことにした・・・
東京・新大久保のとある劇場で・・・
『いらっしゃいませ、お客様はどんな夢がご希望でしょうか?』
ヒュー、受付嬢からしてセクシーでそそるおねえちゃんだぜぇ~!ただ、今回は彼女と遊びに来たわけじゃあない。トリップムービーのリクエストってやつをしないとな!
「うーん、そうだなぁ~、これといった希望は無いけど美女に取り囲まれたハーレムの王で宇宙戦艦の司令官、宇宙怪獣をなぎ倒しスーパーマンもなんのその!!てのはどうだい?」
『まああきれた!そのようなトリップカードはございませんがなるべくお客様のご希望に沿うように準備いたしますわ。このトリップカードはお客様の脳を直接刺激してお望みの夢を意識の中から引き出します。ただお客様には実際にご体験されているように思われるでしょう・・・。では、良い夢を~』
心地よい感覚が脳をチクリと刺激し、いつしか夢の世界の中へと入りこむ、そしてそれは実に素晴らしい夢だった・・・
夢の中の俺はヨーロッパを中心に世界各所を旅する一匹鶏の「ゴルコ31」と呼ばれるエレガントなツーリストだった。
世界中の名所を巡りつつ、様々な国との美女とのラブロマンス(←ここはただの妄想です。実際はザンビアでビザ取りに1ヶ月以上かかったり、中央アフリカで賄賂を要求されつづけて街道をひた走りに走ったり、コートジボワールで立ちションをして捕まりかかったりだったような・・・)を繰り広げる、まさに俺の望んでいたスリルに満ちた世界だった・・・
だが、世の中には俺のような正統派の一匹鶏のツーリストを嫌う組織がある、そう国家の下僕、官憲ギルドの存在がそれだ。ただ、俺には武器があった、左腕に仕込んだ「セコイガン」がそれだ。身の危険が迫るとセコクセコク相手にこの左手のセコイガンに掴んだ現ナマを渡して見逃してもらう、まさに無敵のツーリストだった!
ただ、その中でギニアで無抵抗のまま「ギブミーマネー」に現ナマを渡してしまったのがやばかった、俺は賄賂をイージーに請求できるお尋ね者ツーリストになり世界中の官憲ギルドに狙われるありさまだった。
だが、俺は旅行界唯一のヨーロッパ・エレガント・ツーリスト・・・ 左腕にセコイガンを握る不気味なツーリストだった・・・
・・・
・・・・・・
「ふーう」
やくざ映画を見た後、みんな肩をいからせて出てくるというが、トリップムービーを終えた俺がまさにそんな感じだった。
『如何でした?トリップムービーは?』
「いいねぇ、ヨーロッパを中心に世界を駆け巡るエレガントなツーリスト、ゴルコ31!最高だったぜ~」
『えっ?そんなのはプログラムに入ってないのに・・・』
「いいのいいの楽しんだからさぁ~」
私は劇場を後にする。
「うーん、ゴルコ31かぁ、しがないサラリーマンの俺とは大違いだぜ」
まさに夢冷めやらぬような感じで夜のハイウエイをかっとばしていた・・・
キキィ~!
前方に車両発見、あわててハンドルを切る、接触こそ避けたの物の大きくコースアウトしてしまった。私は車両から降りて相手の無事を確かめる。
「大丈夫かい?」
「んっ?」
どこかで見た顔・・・、そうだ、トリップムービーのあいつだ!!
180cm、90kgを超える巨体。ポリスの制服こそ来てないもののさっき見た映像と瓜二つだった。
「ギブミーマネー!あんた、ギニアでゴルコともめただろう、つまり奴の宿敵ってわけだ」
『なんの話だ?』
「すまんすまん、夢の話だ!」
『夢だと!貴様一体何者だ?』
「おいおい、夢の話といっただろう!」
『いや、俺がそのギブミーマネーだ、ゴルコのことを知っているな、奴はいまどこで何をしている、とぼけるつもりならお前から今度は金を巻き上げるぞ・・・』
日本では目にしない拳銃、それを日常に使用するのが当然とばかり腰からスムーズに抜きこちらに構えていく。俺はゴルコってわけじゃないのにこいつは災難だ。
「いや、そういわれても・・・」
私は無意識に左手をポケットに入れ中にあるものを握りしめる、そしてその左腕を無意識にあげていた!
『なんのおまじないだ・・・』
私の手が開く「1000ギニアフラン×2枚(=70円)!」
そしてそれを素早く彼に差し出す
『ぐっぐぁぁぁぁぁぁ~』
ドサッツ・・・
計2000ギニアフラン、これをヤツに向けただけで倒れてしまうとは・・・だが・・・
俺は一体全体なんでこんな物を・・・
慌てて四周を確認する、こんなところを人に見られたらまた・・・、俺は車に飛び乗り家に向かった、それにしてもおかしな事ばかり今日はおこりやがる・・・
家にて・・・
たどり着くと同時にソファーに腰かけ自分の左手を眺めていたところにベンが話しかけてきた。
『ジョンソン、ドウシヤガリマシタ?ン??』
「俺にも分からん・・、なんでギニアフランなんて左手に握っていたのか・・・」
「ん?」
「ベン、まてよおかしいいぞ?」
「俺はこ7年前以前のことをほとんど覚えていないぞ・・・」
ガチャ
引き出しを開ける、そこにはトリップムービーで見たものと同じ、世界各国で使っていた紙幣が・・・
「だんだん思い出してきたぞ・・・、これはゴルコが使っていた物と同じだ・・・」
ズキューン、不意に銃声が響く
「ベン!」
私の盾になり彼が撃たれていた。
私は振り返り即座に1000ギニアフランを数枚投げつけて襲撃者を手懐ける。
『見事な腕だな、ゴルコ・・・』
「アンゴラボーイ!」
『ギブミーマネーに2000ギニアフランを渡したのはまずかったな、これでお前の正体が分かった、もう逃げ道は無いぞ・・・」
「そううまくいくかな・・・、俺の相棒のことを忘れているぜ・・・」
「・・・」
「・・・・・・」
「ソロのツーリストの俺に、相棒なんていなかったことを忘れてた・・・(涙)」
ならばっ!
「俺はもうザンビアにもアンゴラにも行く予定はないぜ・・・・・これでもくらえ!」
左手のセコイガンから発射されたもの、それは彼の国籍のアンゴラの紙幣ではなく、彼と出会ったザンビアの物だった
20ザンビアクワチャアタッ~ク!
『ぐぁぁぁぁぁ~』
足元に横たわるアンゴラボーイ、彼を見下ろしながら鮮やかに記憶が蘇ってきた・・・
そうだ、おれは左腕に「セコイガン」を持つ、ヨーロッパのエレガントなツーリスト・・・
トリップムービーで見た夢は現実の自分だった、旅行ばかりの毎日に嫌気がさし(単なる予算切れともいう)官憲ギルドの目から逃れるため、血なまぐさい過去の記憶を一切消していたのだった・・・
「しかし、人間なんて不思議なもんで旅行に満ちた生活をしている時は安定したサラリーマン生活を望み、そしていざ平凡な生活にもどるとまた旅行に満ちた生活が恋しくなるなんてな・・・」
俺は煙草を咥えて火を灯けた。
出国まであと9日!
いずれにしても、このプロフェッショナル、また旅行の世界に逆戻りだ!