舞台国中央アフリカ共和国
あらすじ:
カメルーンの国境町から中央アフリカ共和国、首都のバンギまでの距離は約600Km、これを目指し一路進むデューク東城、しかしそこで待ち受けていたものは20もの数を超えるコントロール(政府の警察や軍、軍警察の設ける検問所)からの強烈な“賄賂攻勢”だった。
果たして無事に首都のバンギに到着する事は出来るのか?
どうする!ゴルコサーティーワン!!
舞台マップ
序章
カメルーン
中央アフリカ共和国、アフリカ大陸の中央に位置するこの国はネーミングからいっても捻りも何もないがアフリカの臍の国と例えても間違いではないだろう。そして首都のバンギは南端(川を挟んで対岸のコンゴ人民民主共和国に接している)にこそあるものの、東西でいえばその丁度中間にあり、アフリカ最奥部にある首都である事に異論を挟む者はいないだろう。
私が入国を計画した2005年9月現在、政情は当然不安定であり、何よりも1ヶ月ほど前に私が通過しようとしていた国境の50kmほど下にある別の国境の村がザラキナと呼ばれると元軍人などから構成される盗賊集団に襲われていて多数(数十名規模)殺戮されていたことから情勢は余談を許さなかった。
入国に際しカメルーンで情報収集をしたが今はドゥアラからバンギまでコンボイ(車両が集団を組みガードが付くために安全が確保される)があるらしいと言われたので「もうこんな所には一生来ないから」という理由も手伝って入国する決意を固めていた。
当然ながら危険を犯してまで行くつもりなど「このチキンたる私」には毛頭なく、国境に近づくまでに集められるだけ情報を集めて何か問題があればさっさと戻り、飛行機でバンギにカメルーンから往復と言う考えも捨てきれないでいた。
ただ金額の高さがネックであり、飛行機では往復500ドルは超えてしまう。陸路ならカメルーンの首都ヤウンデからバンギまで全部の料金を合計しても100ドルもかからないので、やはり出来れば陸路で行きたかった。
2005年9月24日(日)の夕刻、ヤウンデを鉄道で出発し翌朝ンガウンダルへ到着、ハイエース型のミニバスに乗り換えて、その足でそのまま一気に国境町ガルアブライへと向かって行った。
今回の物語はここから始まる...
第1章 入国前夜
カメルーン側の国境町ガルアブライに到着したのは夜の帳が落ち始めた翌25日(日)の1800頃、バス停に到着して気を落ち着かせるためにタバコを吸い、そして吸い終わってもみ消した時に辺りはもう完全に暗くなっていた。
到着したガルア・ブライ
到着した時からすでに目の前に見えていた “たった20Mしか離れていないミッションカトリック(教会系の宿泊施設)”にバイクタクシーを値切って意気揚揚と向かってしまったというプロフェッショナルらしからぬ失敗はあったがまあいいだろう。
ここで首尾よく宿泊することが出来、ついでに「中央アフリカのバンギへのルートはどうなのか?」と質問してみる。丁度バンギに行くミッショナリー(宣教師)がいてどうやらこのプロフェッショナルに同行してくれるらしい、呼びにいっている間に持っていた10000CFAで料金を支払おうとすると
「ちょっと待っててくれ、お釣りがないから探してくる」
と言う。
まあ賄賂対策に小銭を作りたかっただけなのでもちあわせの1000CFA札2枚で支払おうとすると急にそれを止められる。
「おまえは小さい札が必要なんだろう?ちょっと待ってなさい」
ということらしい。このプロフェッショナルの心理を簡単に推し量るとは流石...
いや、ちょっと違う。
[ここは賄賂を払うことを前提にこのプロを支援しようとしている]
と言うことなのか...!
どうやらバンギまでの道はかなりのストレスを考えなければいけなそうだ。
宣教師がわれわれの部屋に入ってくる。神父が私を説明して同行できるかを問うている。
なにやら大分迷惑そうだ...
結局、同行はどうやらボツらしい。彼のフランス語を英語に通訳してもらったら
「私と同行することは危険なので同行は無理」
ということらしい。
うーん、私が一緒だとどう危険になるかはさっぱり分からないが、この状況は良くない。
どうやらバンギまでの道はこのプロフェッショナルな私をもってしても相当ののストレスを考えなければいけなそうだ。しかし[私といると危険]ということは自動的に[私は危険な目に会う]と言われているような気がしてならない。
まあ今日これから動くわけにも行かないし、尻尾はいつでもまくれるがとりあえず明日は国境だけでも見てから帰ろう(もうすでにビビリまくってヤウンデに帰る気満々です)と決意する。プロフェッショナルとしてはそれが順当な判断だろう。
第2章 死闘の予感
翌26日(月)、朝0800時頃に起きて準備をする。昨夜知合ったミッションカトリックに滞在しているイブと言う若い男が中央アフリカ入国まで国境でのフランス語の通訳の助力を申し込んでくれた。彼は英語が話せる事もあり昨晩色々と話して意気投合していた。しかし助力までしてもらったらどうやら入国しなければいけなくなってきた気もするが、そこはプロとしては最初にイブにピシャリと言っておかなければならないことがある。
「危なそうだったらとっとと入国するのを止めてドゥアラからフライトでバンギにはいる....」
と。
昨日宣教師に同行を断られた段階でビビリまくっているのに意地になって入国してもしょうがない。まあこれで入国できなくても国境見学とたかをくくっていけばいいだろう。
国境へはバイクタクシーで向かう、カメルーンのイミグレの手前のイブの知り合いの店に大きな荷物を取り敢えず預ける。入国するようになったらイブが取ってきてくれるといっていた。何でも外国人の私が大きな荷物を持って入国するのはヤバイらし...しかし、何がヤバイんだろうか?あまりいい予感はしてこない。
カメルーン側の手続きで立ち寄った場所は3箇所、1箇所軽い賄賂請求があったがコンゴ共和国に入国した後はすべての賄賂を戦って断りつづけている。こんな所は楽勝だ。賄賂請求のあった所では「ちょっとパスポート返してくれ。見せたい書類が挟んであるから」と言って手元にパスポートを取り戻し、「お前は賄賂を請求しようとしている、俺はお前がいいと言うまではここから動かないけどパスポートは何があっても返さないぜ!」と強硬に言い放つ、彼は悔しそうな顔をしたものの「私の及ぶレベルではありません」とばかりに身振りで「もう行って良い」と示していた。中央アフリカのイミグレとかがどうなってるかは分からないがウオーミングアップは完璧だ、この先も賄賂請求ぐらいは簡単に断れるだろう。先ずは幸先のいいスタートだ...
第3章:そして中央アフリカへ
中央アフリカ共和国
中央アフリカとカメルーンの国境は簡単なバーで仕切られているだけだが雰囲気は大分異なって見える。中央アフリカセーファー圏では比較的裕福(とはいっても日本に比べると想像を絶するほど貧しい)なカメルーンと政治的な混乱を抜け出しつつあった中央アフリカとは経済的に格差があり、バーの向こうは喧騒と混沌が見て取れる。
イブと一緒にバーをくぐりどこで手続きするかを探そうとするとすぐに軍服に身を包んだ男に呼び止められる。国境をこえて1mと行かない小さな小屋で早速レジストリ-(外国人登録)だ。まあ旅行者にとって「敵はイミグレにあり」でこんなちっぽけなチェックポイントは敵ではない、
そうこう考えている内に2人いる軍人は私のパスポートをノートに写し終え私のほうへ向かって一言、
「5000セーファー(約1000円です)」
「へっ...???」
早速ここからですか?おいおいここは単なるチェックポイントだろう。まあ雰囲気から行って「ウエルカム」は期待していなかったがいきなり「5000セーファー」はないだろう。こんなところで先ず払うとしても「500セーファー(約100円)」が相場から行ってもいいとこだろうし、何よりも賄賂の断り方やパスポートの取り返し方も覚えたこの「プロ」を甘く見てもらっては困る。
「ちょっと見せてみな、今ビザの領収証を出すから」
と言いパスポートを覆ってあるビニールケースに手をかけビザの領収証を出すその刹那にパスポートを取り返す。向こうはしてやられたと言う顔をしているが正義と言うのがあるなら今は間違いなくこの私に添寝してくれているだろう。ここでカメルーンでやったように「このパスポートは俺の物だし手続きは終わったからもう行くぜ」とイブに通訳してもらい立ち去ろうとする。
すると一人の軍人が私の前に立ち塞がり、
「いや、パスポートをもう一度俺たちに戻してお金を払わなければここは出さない。」
と言ってくる。
私は尚も
「俺のパスポートにビザ、そしてこの領収証も見ただろう、お前の国の入国に金を60?払って許可を買っているし、ビザがあるからお前らが俺から金を請求するのはおかしいだろうが」
と言うと
「これはヤウンデの領収証でここは国境だ、これは関係ない」
「...」
「ビザって何ですか...?お金を払ったのに何でここで賄賂まで払うんですか...!!教えて先生!!」
私の心の悲痛な叫びは誰も聞き取らずそして彼は私の前から動こうともしない。彼一人では時間がかかると見たのだろうか、残る一人も加勢して2対1、イブはいるものの地元民である彼に強行突破の協力をさせるわけにはいかない。私は単なるパッセンジャー(通過者)だが彼はここにい続けなければいけないのだ。
軍人たちはさらに冷たく私にこう言い放つ。
「ここは中央アフリカだぜ、お前が金をここで払わないんならそれでいいかもしれんがこの後バンギまで20箇所を超えるコントロールがあり全部ここよりひどい状態だぜ、お前今からカメルーンに引き返して飛行機でバンギに行けよ」
「...」
「はてさてここは一体どういうとこなのでしょうか...???」
うーん、どうやら私が最初に想像していたよりかなりタチが悪いらしい...
しばらくにらみ合ったが私も立っているのが面倒になり、結局外には出れずに中の椅子に腰掛ける、そしてまた睨み合いながら「俺は金を払わない」と言い続け、彼らの折れるのを待つ事にした。パスポートは未だ私の手の中だ。
当然ながら腸は煮えくり返っているし意地にもなってしまっている。あれこれ口論しながら1時間くらいかかっただろうか、私が根を上げ始めていた。
理由は簡単だ。「ヤニ切れ」である。ただでさえいらいらしている上に散々口角飛ばしてきたのでちょっと落ち着ける時間も必要だった。このまま持久戦になるとヤニ切れに勝てなくなる事と、またこの中で煙草を吸っても気持ちは落ち着くわけもないので外に出て吸う事にする。
「おい、煙草を吸うならパスポートは置いてけよ」
等といい、本当に行く手を塞いできたので止むを得ずパスポートを渡し外に出てイブと話しながら結論を出そうとしていた...
「イブ、ここまで一緒にいて貰って悪いけど俺はやっぱり戻ってドゥアラからフライトするよ、この先20箇所以上も同じ事が繰り返すかどうかは別としてこんなフェアでない金を払うのは小額であってもやだし金はかかるけどフライトした方がよっぽど利巧ってもんだろう、まあ奴らの小屋に戻ったらもうここから陸じゃ行かないからパスポートを返してもらってカメルーンに戻ると伝えてくれよ」
イブも私の考えに同感らしく、2人で小屋に戻って机の上を見ると出るときには置かれていた私のパスポートが隠されている。
気も荒くイブにさっきの件を伝えてもらうのと同時に腹が立って机の上を乱雑に散らかしながらパスポートを取り返そうとしていると軍人たちは苦笑しながら自分の服のポケットにしまった私のパスポートを取り出してこう言ってきた。
「お前が金を払わないのは良く分かった、じゃあここはいいからこっからバンギに行ってみるといいさ、待ち受けてるのは武装した軍人達だぜ、まあお前が軍人より強かったら金を払わないで済むからな...」
「...」
「いやはや一体全体ここはどんな国なんだ??」
軍人とやらは普通治安を維持して一般人の生命を脅かす敵から守ってくれるものではないのかな??俺が軍人より強かったらって俺は彼らの考える敵なのかな??確かに俺は多少セコイ所もあるが只の旅行者だぜ。
もーう我慢できん!こんな国は一刻も早くお別れだ、幸い用心してカメルーンのビザは複数入国可能なマルチビザだ、それに中央アフリカには入国こそしているもののイミグレまで行ってないので書類上は未だ入国していないので問題は無い。
軍人は私のパスポートを直接私に手渡すのが嫌だったらしくイブに手渡して外に出てバイクタクシーを捕まえコイツをイミグレまで乗せてけと言っている。
「あれっ!あんたらさっきの俺の話は聞いていないだろう、俺はもうカメルーンに戻る気満々だぜ」
何もこんな余計な事をと思いながら降りようとすると何故かイブまでもが「じゃあ行ってみよう」とばかりに乗り気な態度に変わっている。
「まあ大きな荷物は預けっぱなしだがどうせイミグレで同じような目にあって戻ってくるだろうしここは行ってみるだけは行ってみる事にしよう。」
結局私の中での結論と全く違った方向に物事は動き始めてしまっていた。
それにしても...私の応対をした二人は他に大勢の現地人の往来があったのに1時間は完全に私に付きっ切りで他の仕事を全くした気配はなかった。
彼らにとっては出入国の監視がもっとも重要な仕事ではなく
「外国人を見かけたら何が何でも金をせしめる」
事が一番大事な仕事なのかもしれない...
バイクタクシーは5分もせずに到着、イミグレの建物に一歩足を踏み入れた瞬間
「3000セーファー(約600円)」
の声が掛かってくる、さらに
「1000は俺たちへの手数料で2000はチーフへの入国スタンプの手数料だ」
と今度はご丁寧に説明まで付いている。
しかしカメルーンに戻る気満々の今の私にはそんなもんは通用しない、
「おいっ!チーフとやらに会わせろ、1セーファーたりとも請求してくるもんなら俺はもう入国しないで戻るから手前らに払う金はねえ」
と強硬に言い放つ。
向こうが「何をこの野郎は言っているのか」と言う顔で私を眺め始めた頃、奥の部屋から声がしてその外国人を部屋に通すように伝えてきた。
奥の部屋に入り、そこのチーフに
「ビザの代金を正規に支払っているのにこれまで国境のチェックポイントで不当に拘束されて賄賂請求されてここでも賄賂請求するならもうこんなルートに未練はないからカメルーンに戻る」
と言うと、予想に反してニコニコしながら私のパスポートにスタンプを押し、「行っていいよ」と優しく言ってくれた。
うーんこれはいよいよもうこのままバンギに向かうしかなくなったようだ。
私の中央アフリカのビザはシングルエントリー、ここで彼が賄賂を払わなければスタンプ拒否なら問題なくカメルーンに戻れたのだがスタンプを押されてしまった以上はこのビザもこれで終わりだ。それにこんな国のビザをもう一回ヤウンデに戻って取り直すつもりなどは無い。
しかも部屋を退出したときに入口の受付の男が再度私に「3000セーファー」と言ってきたのを制して「彼はいいんだよ」とまで言ってくれたではないか!!
こんな事は予想外の好反応だったのでもう一度彼の部屋に行き、お願いして彼の名刺(手書きではあったが)を貰う事にした。きちんと電話番号まで書いてくれている。水戸黄門の印籠ほどの効果は無いにしてもまあ役に立つことは間違いないだろう。
なんといっても入国スタンプは正規でそしてイミグレのチーフという地方の権力者の名刺を持つと言う事は、私がこの正規のスタンプを押した彼の知人であると言う証にもなる。賄賂請求などで困ったらこれを見せてここに電話しろと言えばいい、彼らもおろそかにはしない筈だ。この事で私の道中の手助けになるだろう...
これでようやく入国にこぎつけた、一緒にいてくれたイブが「君が直接取りに行くと国境で揉めるから」と言って私の荷物を持ってきてくれてようやく安堵のため息をつくことができた。
イミグレの前でバスなどがあるかどうかを見ているとカメルーンへ向かうものは見えたもののバンギへ向かうものは無く、数台通りかかったトラックにイブが交渉をしてくれてとりあえずバンギへ向かって出発する事が出来るようになった。今はもう昼の1500時、実に国境で7時間近くもすごしてしまった計算となるが取り合えずは一歩前進だ、
世話になったイブに別れを告げ、そして私は中央アフリカ、この国境から首都のバンギへと続く国道3号線の道中を行く人となった...
※中央アフリカ有数の規模を誇る国道3号線:私の旅が始まった...
第4章 国道3号線その幕開け!!
私の掴まえたトレーラーは頑丈そうな大型で見るからに安定感がある。イナバの物置以上に100人乗っても大丈夫と言った外見だ。ドライバーと助手の二人が乗っている。聞けばドゥアラからの荷物運搬車らしく、バンギには何度も往来しており、今現在の治安は問題ないらしい。
そういえば以前荷物輸送車はコンボイを組んでミリタリーガードが付くと聞いていたがそれらしいものはなく、それに私が乗っているこのトレーラーはコンボイというよりもどう見ても1両だけで走っているのはちょっと不安だったが止まっているよりは動いているほうが100倍ましだからこの際は目をつぶろう。
ここは国道3号線と中央アフリカでは5本の指に入る大きな道路のはずだが車線など無く、道もくダートの未舗装路だ。幸い浮きでは無いので地面が堅いことがまだ救いだ。
走って10分もしないうちに最初の検問に到着、早速降りてパスポートを渡してレジストリを受ける。今度の検問は軍人が10人ぐらいいていかにも「ちゃんとやってますよ」という雰囲気だが油断は禁物だ。そしてノートへの記帳が終わると当たり前のように
「2000CFA」
と言ってきた。
「おいおい、国境を抜けて最初の検問でもうこれかよ...」
しかし最初の難関の国境はもう突破してきている。ただの検問が国境以上に厳しいというケースは経験上先ず無い。いつもの通りに先ずビザのレシートを見せて「俺は払う必要が無いんだよ」と諭すように語り掛ける余裕すらあった。
「おい、このレシートはヤウンデの話でここは関係ないから金を置いてきな...」
あれあれ、またおいでなすった。しかし俺には切り札がある。「イミグレチーフの名刺」、コイツを早速使ってみようか...
私は胸の財布からさっき貰った名刺を取り出し、
「お前らのやってることをこいつに電話して確かめるけどそれでいいのか??」
と...
この先毎回同じ事をするのかと考えると気が重いがまあでもこれで「勝負あり」だろう、イミグレのチーフと言ったらちょっとした顔だぜ。
彼らは私の差し出した名刺をまじまじと見て仕方なさそうな顔をして私に語ってくる。
「あんた~、これはイミグレで俺たちはミリタリーだぜ、コイツは関係ないから金を出してきな...」
「へっ...!!」
「秒殺かよ...!」
どうやら「イミグレチーフの名刺作戦」、判定「効果無し」でこちらが「勝負あり」らしい...
しかし国境を離れてたった10分でもうこんなイライラさせるようなワイロ攻勢と戦わなくてはならないとは...
結局そのまま30分ぐらい揉めて膠着状態に陥り始めた頃にトレーラーのドライバーが降りて状況を確かめに来た。顔を見るともう行きたそうにしており、何時までやっているんだとばかりに私を覗き込むようにして見ている。
「うーん、ドライバーが敵に回ると困難だ」
と思い始めた矢先に外から別の兵士が戻ってくる。私がふと彼のほうを見ると彼のショルダーバッグの中に何やら見慣れた文字がある..
「仏和辞典...」
何だってこんな所にこんなもの持ってる奴がいるんだ...??
ちょっと興味を持ちその兵士に「お前は日本語を勉強しているのか」と聞くと、「そうだ」との答え、私は日本人である事を告げたが彼の反応は「あっそう」という連れない物だった。彼が本当に日本語を勉強しているとは思えないがまあ気分転換にはなった。
気分が変わったところでふと「そう言えば賄賂の言い値がどこまで値切れるか」試して見たくなってきた。ここで掴んで置くのも悪くない考えだろう。
私はそこの検問のボスに「おい、気が変わって500CFA(約100円)なら払ってやる。
というと彼は私が払うとは思ってなかったらしく
「えっ!本当に払うの!!」
と聞いてきた。
これにはちょっと驚いたがいまさら「やっぱり払わん」というのも変になってしまい
「500CFAだけならな」
というと彼はパスポートを500CFAと引き換えに私に戻しきた。
うーん取り合えず最悪500CFA払えばこの先もいけそうだ。まあ断るのを前提にして粘ってから、時間が掛かるようなら値切って払おうか。
私の中で今後の方針が固まっていく。今回のこの最初の検問で既に30分、最初の国境で純粋に賄賂と戦った時間を合計すると実に3時間は掛かっている。まあ最初に聞いた20箇所の検問が本当であっても1箇所100円なら20箇所で2000円だろう。まあ全部断り続けたとしたら平均1箇所1時間で20時間はロスをするしそれが100円で防げるならまあ許容範囲だろう...
トレーラーは私を乗せ力強く出発する。大型である上に荷物を積載しているので速度は出ないもののどっしりとした安定感がある。まあ安心してバンギまでの旅を続けていけるだろう...
第5章 別離
力強く我々を乗せて順調にトレーラーは1時間ほど走り、そして停車する...
周囲に検問らしきものは無い。運転手と助手が車から降りて何やら点検する。そして運転手が戻ってきて助手に何やら話した後携帯電話を持って消えていく...
「えぇっ!!」
助手はさほど慌てた様子も無く私に身振りを交えてこう伝える
「トレーラーの故障だ、運転手は修理できる奴を呼びに言ったから多分明日か明後日に戻って来る...」
「おいおい、いきなりこんな所で放置プレイかよ...!」
今は夕方の6時だ空もそろそろ暗くなり始めようとしている。
※国道3号線に沈む夕日
幸いな事に次の村まではたったの2kmらしい、助手は私が行くとまた検問で揉めるからここで待っているようにと伝えて食材を買いに行きそして二人で食事を頬張る。彼はいい奴だった。
そして夜も深けていきそろそろ寝ようかとお互い言い始めていた頃、ちょっと気になっていたので「こんな道路の脇で寝て本当に大丈夫なのかい?」と彼に問いかけると彼は笑顔で「此処は何の問題も無いよ、大丈夫だって!」と答えてくれる。
まあ思い悩んでも仕方ないしトレーラーは動かないので彼の台詞に安心して寝ようとすると、彼は何やら荷物をまさぐり、持っていたマチェット(大型のナイフの様な物)を探し出しいつでも手に取れる場所に移して横たわる...
「おいおい、安全な場所でやる行動じゃぁねえだろう...」
結局安心する事など全くできずにまんじりとしないまま朝を迎える羽目となってしまった...
翌27日(火)時刻は0600時を回ったが当然の事ながら何一つ進展しない。このままでは「ただ待ってるだけ」である。このまま待ち続けるのも得策とは言えなかったので助手に歩いて村に行く事を告げ、いままでの乗車賃を1000セーファー(200円)渡す。
昨日一日で進んだ距離はいいとこいって50kmだろう...
しかしそれにしても最初っからツキまで抜け落ちてしまっていた...
※ヒッチしたトレーラ、いかにも“強そう”だったのに無念のスタック!
第6章:連戦!ワイロ街道...!!
次の村、バボウアには30分ほどで到着。
バボウアまでの道のり、歩いていても誰もいない
村に到着し、早速軍警察の検問でレジストレーションをしたら「2000セーファー」のワイロ請求、「パスポートのビニールケースに挟んであるビザのレシートを、そこから出して見せるフリをしながら隙を見てパスポートを取り返す(以下、“ビザレシートで奪還”と省略)」作戦にして、首尾よくかわす。さらにイエローカード(黄熱病)の点検もありここも先程と同じ手口でかわし、また向かいの小屋にはイミグレがあってそこでは「バボウア出入村ビザ!」なる意味不明な「ワイロ請求スタンプ」を準備し(後で首都のバンギで確認したら、彼らはこのスタンプの存在など知らず、そして正規のビザを取得している私にはそんなスタンプには何の効力も意味もないと言っていた)、笑顔で私のページの少なくなり始めて気にしていたパスポートに押して「5000セーファー!」等と抜かしてくる。今度はビザのレシートを見せただけで撃退。
しかしたった一つの村に入るのに3回もワイロを断らなければ行けないのか...それにしてもうんざりだ!!
しばらく待っていると国境のガルアブライからミニバスが到着、バンギ行きではなかったがボウアールという次の町まではこれで行ける。今日中にバンギ行きは無理そうだが進めるだけは前に進むべきだろう。
※バボウアで乗り換えたミニバス、しかし国境から来ていたなら国境にもう1泊していても良かったんじゃないか?と思ってしまう・・・
バボウア出発時に早速検問を通過、ここでも「2000セーファーの請求」、手口は一緒で一度私のパスポートを預け、そして台帳に記帳してから人質に取ってくる。ここも今や定番と化した「ビザレシートで奪還」作戦でパスポートを取り返す。
ボウアールには1530時に到着、今迄の村に比べると規模もい大きく町といっていいだろう。ここも入町時にさっそく軍警察の検問がありやはり「2000セーファー」の御要求!パスポートはまたもや人質だ。ここも「ビザレシートで強奪」する。
今回の敵は「パスポートをもう一度戻せ!」等と言ってきて少し手強かったが、こちらも強気に睨み返し、しばし膠着状態となったが10分ぐらいで向こうが諦めて釈放!
それにしても手口が毎回一緒で芸が無い。こちらもパスポートを渡さなければいいのだが毎度毎度乗客全員が回収されてしまう為に一度は手放す羽目になる。
そして先ず最初に現地人たちが呼ばれ、彼等のパスポートを返してミニバスに戻らせ、私は最後までそこで待たされる。そして記帳が終われば「ワイロ」を当たり前のような顔で請求する。
いままで通過した全ての場所でこんな不正を“正々堂々”とした態度でやってくるもんだから彼ら役人のタチは最悪だ。これでは一向に気が休まる暇が無い。
その日のバンギ行きはやはり無く、ボウアールで一泊する事になる。散策していると、軍人の制服を着た男が目ざとく私を見つけて「2000セーファー!」、それにしても村の中に入ってまで請求してくるとは...、今度はパスポートを預けたわけでもないので無視して撃退する。宿しか気の落ち着ける場所は無かった。
※ボウアールのモニュメント、撮影後にワイロ請求(勿論拒否しました)...ぐすん...
そして宿泊した宿からみたボウアールの景色
翌28日(水)朝0600時にバス亭へ行き、バンギ行を首尾よく掴まえる。私が後部座席に座ろうとするとスタッフが笑顔で前座席を示し私に座るように促してくる。
いつもなら喜ぶ所だがこれまでのワイロ攻勢に辟易し始めていたのでなるべく目立たない後部座席がいいと断ると、「前は追加料金(100円)」があるから中央アフリカ人はあまり乗りたがらない、外国人の私が座ればいいと尚も言ってくる。それでも断ろうと思っていると「後ろは満席になったから前だ」と言ってきた。これ以上前か後ろで押し問答を続ける場合でもなくなっていた。私は諦めて前にする。
※ボウアールからバンギまでの道中で“私が命を託すことになった”ミニバス、頼り無さそう...(涙)
出発時に早速最初の検問に到着、私が降りようとするとスタッフが一度制して「待て」という、事の成り行きは?と見守っていると予想通りというか何と言うか結局軍警察は私を発見し、パスポートを要求して預ける羽目となる。記帳が終わるとまたしても「2000セーファー!」こちらも「ビザレシートで奪還」作戦でパスポートを取り戻す。こんな事の繰り返しに私はもう完全に飽きていた。
次の村バオロには0930時に到着、ここも入村時の検問で当たり前のように「2000セーファー!」、こちらも前回と同様にして取り返す。今度の相手は少し意地が悪く、私が出口から出れないように立ち塞がってくる。こちらも負けじと睨み合い、なんとか相手を根負けさせる。
それにしても...、毎度毎度仕掛けてくるとは...
もういい加減にしやがれ...!!
第7章:死闘の代償...
このバオロでは30分程停車し、1000時に出発。出口には早速検問だ。今回も軍警察が相手だった。
バスのスタッフはまた「私にここで待て」と言ったが、助手席に座っている私は当然“あっと言う間に発見”され早速パスポートを預けされられる。
私もバスから降りて検問所の小屋の前に行く。今回の検問所は今迄の物よりは規模が大きく、兵士も10人ぐらい詰めていて武器も小銃や機関銃をこれ見よがしに壁に立てかけているちょっと立派な物だった。
私は中に入れず、この木の小屋の外からカウンター越しに彼らの記帳する様子を見ることになった。そこのボスらしき男が私のパスポートを記帳する。そして記帳が終わると当然のように「2000セーファー...」、またしてもだ!
いつものように「パスポートのケースに挟んである書類をちょっと見てくれ」といって、向こうが「どこだ?」という顔をし始めたのを見て、「ここだ」と手を出してそのまま取り返そうとすると、相手は急に私が手をかけようとしたパスポートを遠ざけてしまう。
今回の私は、小屋の外からカウンター越しに中へ手を伸ばすような格好になってしまっていたのでちょっと不自由な態勢となっていた為に失敗したのだった。彼は私に手を触れさせないようにそのままパスポートを所持し、そして「2000セーファー」と念を押してくる。
この意地汚いやり口は気に入らない。こうなったら「キレルフリ」だ。実際毎度のワイロ請求に「頭にキテイル」事も間違いなかった。
英語で相手を怒鳴りつけると私を露骨に無視し始めた。さらに頭にきてしまったのでこちらは行儀悪くカウンターに乗って腰をかけ尚も「パスポートを返せ」と怒鳴っていると、彼は私を完全に無視し、横に座っていた若い兵隊に私のパスポートを手渡し、胸のポケットに収めさせ、ボタンをかけさせる。
「くっ...!」
何なんだ!こいつらは...、
私はそのままその若い兵士とそのボスである彼に文句を言い続けたが完全に無視である...
相手のやっていることは「山賊」とまるで一緒だ、全財産持ってかれないだけ相当ましなのだろうがそもそもコイツ等何故検問なんてやっているんだ。仮にも国の軍人である。「旅人に不当な料金を課し、ワイロを徴収するのが任務」等ということはどんな国の法律にだって建前上はあるわけがない。彼等のこの態度に私の我慢の泉ももう尽きようとしている。
「これ以上はもう黙って許すわけには行かない...」
いつもなら「チキンナンバーワン」をもって鳴らすこの私のことだ。ここで相手の人数を見てその上にこの強硬な態度を見れば簡単に根を上げ「2000セーファー」払ってしまう筈なのだったが、この時は正常な判断や客観的な思考はどこかへ吹っ飛んでいってしまっていた...
私のパスポートを所持している若い兵士は身長180cm強、体重も80kgは超えていそうだ、中々に屈強な見た目をしている。こちらはというと「プロフィール」欄を確認していただければ分かる事でもあるが身長推定200cm、体重は公称100kg、ひけは全く取っていないどころかこちらが優位と言えよう。相手が不思議と大きく見えているがこれは「気のせい」に違いない...
そして私はカウンターから身を乗り出し...
おもむろに若い兵士に掴みかかる...
一つ注意しなければ行けないのは拳を握り締めて相手を殴ってしまったらこっちの負けだという事だ。これをやってしまったらお互いもう後には引けない。彼らは集団で私を「リンチ」にかけてくるだろう...
ここはアフリカだ!
今の私の行動が正義かどうかは分からないが不当に取り上げられているパスポートを取り返すだけなら「正当性」というものは少なくとも私の側にある。
そして彼の胸のポケットに手をかけると当然の様に向こうもポケットを押さえて私の行動を邪魔してくる。
素早く彼に肉薄し、彼の手を上から掴んでポケットから引き剥がす。
これまで2秒は掛かっていない...抜群の手際だった...
そして、周りの兵士が私に掴みかかり...
私を彼から「引き剥がす」...
少なくとも4人は私を押さえつけてきただろうか?
これまで最初から4秒は掛かっていない...抜群の手際だった...
「強硬手段、失敗...!!(悔)」
押さえつけてきた他の兵士を相手に身をよじって暴れたので、当然のごとくさらに強く押さえつけられてしまう。これ以上強硬手段を続けるのはもう無理になっていた...私は力を緩めると彼らも私を離てくる。しかし一度強硬手段に出てしまった以上はこちらも簡単に折れる訳にはいかなくなってしまった。
事態は“泥沼化”し始めるより他に無さそうになっていた...
バスの乗客も私が揉めたのを気にし始めたらしく、周囲に集まって来る。
私は少し間を空け、再度カウンターへ戻り腰掛けてボスに文句を言う、さっき掴みかかった若い兵士は外に出ていってしまった。パスポートはまだ彼の手の中にあったままだった。
5分ほどして彼が戻って来る。彼はカウンターに座った私を見て、何やら胸のポケットを手で指し、2、3何か怒号を上げる。
そして...
今度は私に掴みかかってきた!!
私も当然抵抗する。彼は私が先程掴みかかったのが気に入らないからどこかに連行してやろうという態度であった。
ここはもう殴りつけるしかない。しかしそれよりも小屋の中にある武器が問題だ。殴るのは簡単だが相手に先に武器をもたれては完全に「ノーチャンス」である。そもそもこちらは体以外の何一つ持ち合わせてはいなかった...
しかし、今回は予想しなかった助け舟が現れた。私と彼が掴みあいをしていると、今度は兵士達が私と彼の両方を押さえつけて我々を引き剥がして事態を収拾したのだった。良くは分からないが、彼等の中でも本能的には「ワイロを請求しているという後ろめたさ」があったのかも知れない...
こうして2度引き剥がされた事によって、多少の冷静さは取り戻せた。もうこの検問に到着してから1時間ちかくたっている...
私は考え直し、ワイロを払う事にする。しかし相手のやり口に本当に腹を立てていたし、いい値の「2000セーファー」が変わらないなら払うつもりはない!ミニバスのスタッフを呼び、彼らにこう告げる「500だ!(約100円)」、「パスポートを返すならこれだけはくれてやる...」
しかしながら私から直接手渡すのはどうしても気に入らなかった。
さらにスタッフに500セーファー札を渡してこう告げる。
「お前が行ってくれ、あんな奴等に直接渡すのはどうしても気に入らない...」
スタッフや乗客もじれていたのだろう。私の提案を受け入れボスの所に交渉に行く。
考えられる最悪のケースは“ボスが私が揉めた事により金額を上乗せし、それを私に払わせるまでは引き下がろうとしないというように、頑な態度を取ってくる”事で、そうなってしまったらこの私もどちらかが根をあげるまでここで野宿を決め込むしか他に手段がなくなってしまう事であった。
スタッフはすぐに私の所に戻ってきた。手には私のパスポート、あれだけ散々揉めたのに、どうやらボスは私が小額とは言え支払った事にたいして、納得したらしい。
ようやくパスポートを手にする事が出来、バスに戻ろうとする私の方にボスが近づいてきて、スタッフの方に話しかけている。全部は分からなかったがスタッフに「500セーファー」等といっている。
顔を見ると「してやったり」とばかりの満面の笑みだった...、
たった500セーファーとは言え、支払った以上は“こちらの完敗”だ!それに今までに揉めた一時間も無駄になってしまった。彼のその笑みは私の負け戦を如実に表す物であった...
「くっくやし~い!!(涙)」
※官憲のやり口は汚いものの、雲はあくまでもキレイ...
第8章 “泣きの竜” 生誕編!
私がミニバスに戻る時、英語の出来る乗客が話しかけてきた。
「君を見ているといつも喧嘩して力で取り返そうとしているだけだ、黙ってじっと待っていれば、相手も諦めて返してくれるよ!」
うーん、そう言えばいつもワイロ請求の時はこちらも怒ってしまって常に揉めていただけだった...
確かに怒鳴ってばかりいるのはこちらのエネルギーの消耗も著しいから“待ち”も有りかも知れない。しかし今迄の彼等のやり口を見ていると、黙っているだけでは事態はさほど進展しなさそうだ。何か一つ、別のテイストが必要だろう。
道路はいつの間にか片側一車線づつではあったが舗装路へと変わっていた。
※途中からようやく道は人並みに舗装路に変わった!
これは日本の援助で造られたが”日本人へのワイロ請求”は一向に止まらず...援助の判定、「効果無し!!」
次の村に到着するまで、私なりに色々と考えてみた。そして考えがまとまった頃にボセンピエーレに到着、昼の12時半であった。
今度の検問もそこそこに規模が大きく2つのグループが入っている。一つは軍警察でもう一つは軍らしいが軍服が同じなので私にはどちらがどっちか分からない。毎度の事ながらパスポートを預け、そして記帳が終わって私が呼ばれる。私の前にパスポートを出し、そしてこれも予想通りの一言だ!
「2000セーファー」
今だ!
私は練りに練った新作戦を発動する。
相手の言葉に呼応するかのように、天井を見上げて「2000セーファー」と力なく呟く、そして両手で頭を抱えて下を見て涙声を出す。
「うっうっうっ...、今迄の検問で毎回お金を請求されてきたもんだからもう払えるお金が無くなってしまった...」
「ここも払うんなら俺はもう“破滅”だ、ここで死ぬしかないんだ...」
そして、机の上にあるパスポートには見向きもせずに後ろに下がり、椅子に腰掛けて頭を抱え続けたままうずくまる。ときおり「あぁ~!」と情けない言葉も付け加えていく...
するとどうだろうか?彼は私を呼び、パスポートを手渡してこう告げてくるではないか!
「このパスポートは君に返す、困っているようだからね、そうそう俺達は軍警察であっちは軍なんだ、ここでは2000づつお金が必要なんだが軍には私から断っておくからこのまま行っていいよ!!」
「こっこれだ~!!!」
今迄の私は「戦う事」しか知らなかった。しかし相手は国の役人である。後進国によくありがちな傾向として、”権威を傘に着て威張り散らすような輩”が多い、こういった手合いにこちらから対決を挑んでばかりしていては相手も「プライド」があるから簡単に負けられず、泥沼化してしまうのだ!!
しかし、彼等のプライドを上手く立ててやれば「ワイロを払う金も無いのか、仕方がないのぅ、このわしがこの哀れな旅人を見逃してやるか」という気分になってくるのだった!こうすればこちらは労力をセーブする事が出来、その上で向こうの面子も上手く立つ!!
冷静に考えれば「違法な金を請求して、それを諦めている」だけなのだが、まあ怒鳴って消費する時間と労力を考えるとこちらの方がはるかに効率的だ!!
こうしてここに一人の男、
「泣きの竜」
が誕生する事となった。
必殺技は女優真っ青な「泣き落とし」、この演技力の前に敵う相手はいないだろう...
ボセンピエーレの出口では検問はあった物のワイロ請求は無し、初めてだ!そして次の村ヤロケに至っては出入ともに検問こそあれ「ワイロ請求無し」、さらにその次の村ボセンベレに1930時に到着、今度も検問はあったがワイロ請求無し、立て続けに4回何事も無く通過し、かえってビックリしてしまう。
ボセンベレを出発、検問がありそこに立ち寄るとここでようやく「ワイロ請求」してくれる。しばらくワイロ請求に出会わなくなっていたのでかえって「ホッ」としてしまったぐらいだ。だが、今の私はいつもの「プロフェッショナル・デューク東城」ではない、この地で新たに誕生した「泣きの竜」である。
ここでは先程の名演技にさらに足を引き摺って不自由なフリを加えて若干味付けし、オーバーに表現すると実に簡単に「お目こぼし」となる。
「かっ・か・い・か・ん(快感)...」
旅行が終わった後の私の職業はもう決まったも同然だ。「アクター」として残る一生は生きていける...
第9章:“泣きの竜” あっけなく死亡!編...
日はもう完全に落ち、辺りは暗闇に包まれてはいたがミニバスは順調に歩みを続ける。そして2030時にボアリに到着、入口では早速検問がある。ただ机を置いているだけのこの青空検問所に結構な人だかりが出来ていた。私のパスポートも例によって人質だ、呼ばれていくとここも「2000セーファー」とのお答え...
「ちっ!まあいいこの俺様の“泣き”の凄さをとくと拝んでもらおうか...」
今や「アクター」となった私である。クリントイーストウッドすらこの私には脱帽であろうと言わんばかりの名演技を繰り広げる。今年の「オスカー」は私に決まりだ!!
しかし、予想に反して私の演技は何一つ効果を表さず、相手は退屈そうに眺めて「2000セーファー」等としれっと言い続ける。
「んっ??何だこの暖簾に腕押しと言った反応は...」
周りの乗客たちはギャラリーと化し、私の名演技を魅入っている様に見えるのに...
ちょっと間をおいて、スタッフを呼んで「500セーファー」を渡してこれで取り返すようにお願いする。
私の演技が通用しない今、時間をここで浪費するのはちょっと無駄た。周囲が闇に包まれている事も手伝って、短期戦を決意する。
スタッフはあっさりと私のパスポートを取り返してくる。
私はまたしてもここで小額とはいえワイロを支払ってしまった。これで通算3度目の敗戦だ...
軍人達の声が私の心に響いてくる。
「くっくっくっくっ...竜さんよ!それ、ロンだぜぇ...!」
しかし私の演技が完全に無視されてしまうと言うのはちょっと問題だ。この先この手が通用しないとなるとちょっとやりにくくなってしまう...
そしてボアリを出発するとまたしても早速検問だ。こんどはちょっとした小屋があり、いかにも偉そうにした軍警察らしき者達が取り仕切っている。
私のパスポートはここでもやっぱり人質となる。そこのボスが私を見て「2000セーファー!」とこれもまた相変わらずの一言だ...
「さっきは失敗したが、今度はそういう訳には行かないぜ。俺の一世一代の大芝居、とくと御照覧あれ!!」
私はこうして演技を始める、少し演技して、さほど効果をないことを見て取り、さらにオーバーに演じる事にする。
「おっ・おっ・おっ・う...なんてこった、ボス、アンタは鬼では無いだろう!俺は長い移動でもう体もボロボロなんだ...、今迄毎回お金を取られ続けてもう一銭たりとも残っちゃいないんだ!ここでアンタに止められてしまったら俺は御仕舞だ!、なあアンタ、俺を助けておくれよ!恩に着るからさぁ、お願いだ~!!」
そう言ってその場にへたり込む...
この名演技の前で何の反応もしないとしたらヤツは人の血の通わない、冷血動物だ。
ボスは私の台詞に反応した。まあ当然だ、
私のパスポートを手に取った。
それを彼の横に置いてあったショルダーバッグのボタンを空けてしまいこむ。
そして...
雑誌を取り出して読み始める!!
「...!!」
その長期戦を物ともしない態度は「何があっても私からお金をせしめるまでは返さない」という固い決意の現れだった!!
私の心の中で彼の声がこだまする...
「竜さんよ~、アンタ、それリーチだぜぇ~...」
コイツはちょっといけない。
パスポートは簡単に取り戻せない場所にしまわれた上に、こちらは最初に過剰なまでに弱気な演技をしてしまったから豹変して激怒するタイミングも逃してしまった。
ここは早く抜けようとスタッフに500セーファー渡す。これまでの所、この“非常手段”で失敗した事はなかった。
スタッフはすぐに私の所に戻って来る。今回は手ぶらだ!!私に500を返し、首を振っている。
「ちっ...!これで受け付けてくれないとすると厄介だ...」
今度は私が500セーファーを握り締め、直談判を試みる。スタッフを代理にしたことが気に入らない可能性もある。演技もまだ続けたままだ
「ボス、本当にお金がないんだ、この500もスタッフに借りてきた。お願いだ、これで見逃すといってくれ~!!」
彼は何の反応も示さない、そのまま膠着状態が続く、その時バスのスタッフがやってきて私にこう告げる。
「もうこれ以上君を待てない。他の乗客も先に進みたがっている。君がまだ粘るなら荷物はここに置いていく...」
そう言えば、ここにきてもう既に大体1時間くらいは立ち始めていた。しかし、ワイロを拒否するという極めて真っ当な事をして頑張ってる私を切り捨て様とするとは...
私にとってここで次のバスまで待ち続けるのはどう考えてもうまい考えではなかった。
この暗闇で何の当てもなく、パスポートを取られたまま路上に一晩放置プレイになってしまうことは目に見えていた...
スタッフのこの一言は私にとってまさに“最後通牒”であった...
私は意を決する、これで決めてやる!!ボスに向き直し、そして力なくこう告げる...
「オーケー、分かった、“1000(約200円)”だ...」
彼の言う「2000」は流石に払う気は無い。しかし今迄は500で切り抜けてきたのにこの1000は私にとっては大盤振る舞いであった。
ボスの顔色が急変する。そして口元には笑みを浮かべ始める...
彼の心の声がこう言っていた。
「くっくっくっ...、竜さんよ~、あんたそれ“ツモ”だぜぇ...!!」
悔しいが仕方がない、私は1000を渡し、パスポートを取り返す、今迄の中で屈辱とも言える最大の敗戦であった。
「サンキュー、ボス、ファックユー!」
と悔し紛れに何の心の救いにもならない一言を投げつけて、その場を後にする事に成った。
ここで気付いた事があった。
「夜は検問所の軍人達も暇なため、幾らでも長期戦の構えをしてきていたので”名演技“が通用しなかったのだろう...、それに暗闇も敵に味方していた、私の絶妙な表情も良く見えていなかったのに違いない...」
私の心が泣き叫んでいる!!
「くぅぅぅ~、お前の”運”をワシにくれや~!親父にくれや~!!」
かくして「泣きの竜」はやけにあっさりと死亡する事となった、万策尽きた今、もう単純に値切って支払う事ぐらいしか私にとるべき道はなさそうだった...
第10章:最後の戦い...
日付は変わり翌29日(木)、真夜中をまわり深夜の0100時にバンギ郊外の「ペーカー・バン・シス(PK26、バンギ市の中心から26km離れた地点)」に到着。バンギ市に肉薄してきた事もあり、深夜だというのに人もそこそこにいる。ミニバスが止まり、スタッフが戻ってきて言うには「検問は深夜でお休みだからここで寝よう」と言う事だった。
「くっ!バンギ目前にして...」
まあミニバスが止まるなら私もそこでストップするより他は無い、他の乗客が親切にも私の寝床を確保してくれて横たわる事が出来た。
一時間くらい立った頃だろうか?他の乗客がミニバスの回りに集まる。そして急に皆でミニバスを押し始める...
「???」
スタッフが皆に注意している。
「おいっ、そぅーとだぞ、音を立てないように静かに押すんだ...」
どうやらここはエンジンを駆けずに無理矢理突破しようとしているらしい、私も乗客の一人なので彼らに加わってミニバスを後押しする、そして検問から少し遠ざかり、バスに乗るとスタッフがエンジンを駆ける。周りの乗客は何かちょっと楽しげだ。首尾よくPK26はこれで通過した。それにしても...我々に易々と突破を許すこの検問は一体何なんだ??
「首都のバンギを守るのにこれで大丈夫なのか...??」
確かに我々は上手くやったがこんなもんでいいのかな?と疑問に思わざるを得なかった...
そしていよいよPK12(ペカ・ドゥーズ)に到着、バンギまで12km、いよいよ目前だ。このPK12というのはちょっと厄介で、バンギに陸路で出入する者はここで「バンギ出入スタンプ」を押してもらわなければいけなかった。さっきの様に突破という訳にはいかないだろう...
しかし、予想に反してここも突破してしまう!私は慌ててスタッフに「おいっ!バンギインのスタンプが必要だ!」といっても「安心しろ」と取り合ってもくれない。
そうしてバンギ市内の治安の悪い事で有名なマーケットのある「PK5(ペカ・サンク)」へ到着、今は大体2時半くらいだ。ミニバスは道路から少し奥に入ったところに停車する。私は少し呆然としてスタッフに問いかけると朝になったらすぐPK12に戻るから心配するなと言ってくる。バスも出して貰えるらしい...
そして朝の0500時にPK12に戻る。流石にバンギ出入の最大のポイントであるので役人の数も多い。だがその前に深夜に我々を簡単に突破させていたからこの人の多さも見掛け倒し、といった感も否めなかったが...
英語の喋れる少し立場が上の男が来て私の応対をする。そしてレジストリが終わりバンギインのスタンプを押してもらう。
私の横に別の係がきてここでもやっぱり「2000セーファー」と言ってきた。
私は英語を喋れる男にこう問いかけた、
「俺は正規にビザを取得してここに入国している。大使館で聞いた話では、道中でかかる費用は無いということだ。それなのにいま私の横でこの男が2000セーファー請求しているが、これは何に必要な料金なのか...」
彼の対応は流石というかまあ極く尤もな事だった。
「料金は何も必要ない」
そして私の周りに聞こえるようにして大きな声で「ここはタダだから気にしないで行ってくれ」と継ぎ足してくれる。
私の横で「2000セーファー」要求していた男もこれであっさりと引き下がった。
国道3号線、この「ワイロ街道での戦い」はこうして終末を迎えることとなった...
※息も絶え絶えになって到着したバンギ市内最大のマーケットPK5(ペーカーサンク)
第11章 そして終わりに...
バンギに到着したら次はチャドに向かうことにしていた。陸路も考えていたが中央アフリカからチャドに抜けるルートは山賊たちの出没して危険だという事で有名な上に距離も1000km以上あったので日数も今回よりも大幅に掛かる事が目に見えている、もう一度カメルーンに戻ってからチャドの首都ンジャメナを目指す道もあったが散々な目に合い精も魂も尽き果たしていた私には、この同じルートをわざわざもう一度戻る気はもうなくなっていたのだった...
今度こそはと迷わずフライトのチケットを買い、そして空路で出国する事を決めた。
しかしそれにしても今回の移動は最悪だった。
カメルーンの首都ヤウンデからバンギに到着するまでに5日間掛かってしまい、中央アフリカでは私が必要に応じてパスポートを見せざるを得なかった検問所(国境のイミグレ等も含める)が数えると21箇所もあった、そして其の内の実に16箇所にも及ぶ検問所が私のパスポートを人質に「ワイロ」請求をしてきていたのだった!支払った金額は合計4回で2500セーファー(約500円)、上手くやったとも言えるがそれでもこれだけの敗戦を繰り広げてしまった事は明白な事実だった。
「国道3号線」
ここでの旅の苦い思いはこの先の終生、私について回ることだろう...
「この凄まじかった連戦の、そして敗戦の想いが...」
注意書き:
この後、私の他にここを通過した旅行者から情報を聞くと、パスポートを人質にとる手口は変わらない物の、私の受けたものとは違ったやり口を経験していた。一人は移動中の検問では何もなかったが村に宿泊した後で連行され、そこで請求されたらしく、またもう一人は厳しいワイロ攻勢との戦いの最中にパスポートを紛失してしまっていた。(注:この辺りの経緯は“コノタナカ這這ノ体ニテ ”“イヌイ日記”を参照)
私が受けたのは、この中央アフリカではワイロ攻勢も通過する時間帯や対応している相手によってがらりと変わっているという印象で、恐らくこれから旅をする色々な人々は、それぞれ各人にとって
「一人一人がオリジナルの“ワイロストーリー”」
を作り上げていく事が出来そうだと言う事である。
もし、今後この国に入国する者がいるならば、今回の私の話を鵜呑みにせず参考程度に留めておいて、自分だけの
「ワイロストーリー」
を是非とも作り上げていって欲しい...